ショートショートバトル 5KBのゴングショー第95戦勝者

「ほぼ上下関係」

時里キサト

「最近、仕事にやりがいを感じないんですよ。」
「ほう、どうしたのかね。今まで一分一秒たりともまったく休まず働き続けてきた君が。」
「僕がどんなに働いても、誰も認めちゃくれないじゃないですか。こんなにも身を粉にしているというのに誰も褒めてくれない。」
「君ね、働くと言うのはそういうことなんだよ。私たちは働いて当然、と言う風に見られているからね。でも、私たちが働くのをやめたら誰もが困ってしまうんだよ。」
「去年僕が休んだときは、誰も困ったそぶりを見せませんでしたがね。去年だけじゃない。一昨年も、その前もだ。」
「まったく、そんなに誰かに認められたいのかね。これだから若造は」
「いいや、僕は知っています。あなた、本当は僕と同じ年に生まれ、しかも同じ日から働き始めたじゃないですか。」
「私のほうが能力が上だということだ。」
「でも、あなたのほうが明らかに仕事が少ない。仕事を始めた日からずっと!」
「君は何をヒステリックになっているのかね。君、怒りすぎると仕事に支障を」
「話をすりかえないでください。僕は、あなたと私で待遇の差がありすぎる。これをどうにかしてほしい、という話がしたいんです。」
「またその話か。どうにかと言ったって、こればかりはどうにもならないんだよ」
「いいえ、どうにかなるはずです。あなたと私の立つ位置を入れ替える、これが出来るだけでかなり変わりますよ。」
「出来ないな。私たちの立ち位置は変えることが出来ない。」
「じゃあ、仕事のペースを落とさせてください。今の仕事のペースは速すぎる。これからは仕事にももっと余裕が必要です。」
「それも出来ないよ。私たちの仕事は、このペースが限度なんだ。」
「じゃあ、あなたの仕事のペースをもっと早くしてください。あなたは僕の十分の一しか仕事をしていない。これは明らかに不公平だ。」
「そんなことをしたら仕事が成り立たないだろう。私と君が同じペースで仕事をしたら、たちまち狂ってしまう。」
「そうですか。それなら、僕は仕事をしません。ストライキを起こさせてもらいます。」
「やれやれ、またか。去年も同じ時期にストライキを起こしたね、君は。」
「今年は絶対に、この不公平な労働環境が改善されるまでは働きません。」
「まあ、長針の君が働かないのなら短針の私も働けないな。今年も強制力によって無理やりスト中止させられるんだろうがね。」

「あ、またあの時計止まってる。」
「本当だ。どうしてうちの学校の時計は夏休みが来るごとに止まるかなー。」
「ま、今年も先生が電池入れ替えるんだろうけどね」
「あ、あれ電池式なの?ゼンマイ式かと思ってた。古いし。」
「ゼンマイ式は古すぎっしょー・・・」


 

作者のサイト:http://junbi.hp.infoseek.co.jp/index.html

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