科学が進んだ現在、ロボット技術の進歩は目覚しいものであった。
その流れで、医療ロボットというものも開発され、やがて量産され、今や当たり前の
様にどの病院にも何台もの医療ロボットが配置された。
プログラミング通りに、寸分の狂いもなく手術や診察をこなす医療ロボットは、科学
者たちのお墨付きで、人間の医師たちの必要性を疑問視させるほどだった。
ただし、万が一ということもある。と、その時の為に、人間の医師は一応、病院に配
備されている。が、彼等が活躍することは、極めて少なかった。
「私達って何のためにいるんだろうね?」
「機械様がご病気になった時の為にいるのさ」
休憩室に集まった4〜5人の医師たちは、毎日の様にそう皮肉っていた。
ある日のことだった。
1人のナースが、医長に1つの報告をした。
とある入院患者が、定期検診が行われなかったと訴えたという。
医長は、万全を喫するため、機械整備士を呼んだ。
念入りに検査が行われたが、医療ロボットに特に異常は無かったと報告された。
大手の整備会社から派遣された一流の整備士の言うことだと、医長は納得せざる
を得なかった。
現に、それからしばらくそういうようなことは無かった。
だが、異変は再び起こった。
今度は、定期検診のすっぽかしでは済まなかった。
手術ミス、診察ミスが起こったのだ。
勿論、その時に、整備士を呼んだりしてチェックしたのだが、異常は見当たらないと
いう。むしろ、これだけ綺麗なのも珍しいとさえ言われた。
その謎が解明されるまで、医療ロボットの凍結という意見も医師連盟から募られて
きた、そんなある日のことだった。
医療ロボットの製作に関わったとされる、とある科学者がその事について説明する
と、医師たちを集めた。
そして、一人のいかにも優秀そうな科学者が軽く咳払いをしてから、説明し始めた。
「…………ここ最近、医療ロボットに手術ミス、診察ミスなどが見始められたことに
ついてですが、コレは当然な事だと思います。いえ、むしろ今までミス一つ無かっ
た事がおかしいのです」
「ハア!?今更何言ってんだよ!!」
その説明を聞いた医師たちは激昂した。
科学者は無機質な表情で、説明を続ける。
「世の中に100%というものはありません。ですが、我々科学者たちは、医療ロ
ボットを製作する際、せめて99%失敗の無いようにと、心掛けました。その結果、
医療ロボットの成果は、今までの実績を見て分かる通り、人間の医師たちよりも失
敗を少なくしてきました」
「ふざけるな!」
医師たちは次々と席を立った。しかし、それでも動揺一つ無く、科学者は説明を続
ける。
「ですから、今まで通り使って頂いても、差し当たり問題は無いかと……」
「そんなわけが無いだろうが!」
一人の医師が、顔中を真っ赤にしながら吼えた。
「俺たちは、いや!治療を受ける患者たちもだ!100%大丈夫という面目の元、あ
の機械に身を任せて来たんだ。それを今更なんだ!100%なんてものは無いっ
て、それで納得すると思っているのか!?」
科学者は、急に表情を崩した。と、凄い剣幕でその医師に言い返した。
「それは貴方たちの勝手なエゴじゃないですか!私たちは、一言だって100%大
丈夫だとは断言していない。いや、完璧なものなんてこの世の中には無いんだ!で
も、こっちだって適当にあの医療ロボットを造ったわけじゃない!より完璧に近い9
9%。いや、それ以上の確率でミスの無いように造りあげたんです!現に報告され
たミスだって、ごく少ない……」
「数じゃない!ミスがあったということが問題なんだ!」
医師と科学者は、それから一言も発さなかった。
そして、その場を沈黙が支配した。
こうして、この場はそのまま締めることにあいなった。
あくる日、その事がマスコミに漏れ、医療ロボットは問題となった。
医療ロボットに看てもらおうとする患者は、徐々に減り、やがてコストのかかる医療
ロボットは、次々と廃棄処分ということになった。
更に、この事は他のロボットについてもついてまわることになる。
果たして、世の中に完璧なものなどあるのだろうか?
我々は、完璧を取り繕う人の小さな欠点を知ると、それがとても愛しくなる事があ
る。所詮、そういう事ではないだろうか?
この話は、ロボットだけの事ではない。
我々、人間の事でもあるのだ。
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