ショートショートバトル 5KBのゴングショー第36戦勝者

「見上げる瞳・見つめる瞳」

ATS

その女の子は、制服を着ているところを見ると高校生だろうか。

肌の色が奇麗に焼けて健康な感じを与えるのは、長年の物による自然な日焼けだからだろうか。

さらさらな髪をショートにまとめているのが更に健康な感じを与えている。 

一体彼女は何を見つめているのだろう・・・

その女の子は人の通りが決して少なくない道の真ん中で立ち止まり、じっと、何かを待っているかのように空を見上げていた。

空は午後から出てきた灰色の厚い雲に覆われ、今にも雨が落ちてきそうだったが、これと言って特に変った様子は無い。

いや、この寒さを考えると雪になるかも知れないな・・・

ここ最近の冷え込みはそう思わせるのに十分な寒さで、道ゆく人の服装を見てもそれが伺える。

俺はそんな寒さも気にせずに空を見上げ続けている女の子の事が妙に気にかかってしょうがなく、もう一度その女の子の方へ目を向けようとした。

すると、思ったとおりに空からちらほらと白いものが舞い降りて来た。

この辺も昔は積もる位に降った雪だったが、近年あまり見なかったので少々新鮮な感じだ。
そうか・・・やっぱり彼女はこれを待っていたのかも知れない。

そう思い、俺は再び彼女の方へ目を向けると、一瞬だったが彼女の瞳と俺の瞳が出逢った気がした。

「おい、信号青だぜ!」
「あ、ああっ」
いつのまにか信号が青に変っていたらしく、友達が立ち止まったままの俺を見て不思議そうな顔をしていた。
「おっ、雪が降ってきたぜ。早く帰ろう」
「そうだな・・・」
俺はそう答えながらもう一度振り返ったのだが、既にそこには女の子の姿は無かった

あれから俺は何度と無く帰り道にあの道を選んでいたのだが、再びあの瞳と出逢う事は・・・無かった。

一瞬だけ出逢った彼女の瞳には、天使の羽根が写っていた・・・そんな気がした。  

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