ショートショートバトル 5KBのゴングショー第35戦勝者

「ロシアンルーレット」

woodbell

 ここはとある国のとある酒場。普通の酒場ではない。俺達、裏家業の人間が集まる地下の隠れ家だ。
 俺はP国の諜報員で今回ある他国の諜報員Kを捕まえて、ここに監禁している。もう少しで仲間が集まって来るのだが、少々時間を持て余しているので、Kにある提案をした。
「おい、どうだ一つ賭けをしないか?」
カウンターから少し離れた所で椅子に縛られているKに向かって言った。
「ロシアンルーレットだよ」
Kは猿ぐつわをされてしゃべれないが、目が一瞬恐怖に怯えたのが分かる。
「もしもお前が勝ったら逃げられる。この銃は弾が5発入るタイプだ。交互に撃つ簡単なゲームだよ。知っているだろ?」
Kは小さく頷いた。銃を手に俺は続ける。
「5発ってことは5分の1。悪くないだろ?どうせお前の運命は決まっているんだ。賭けてみるのもいいだろ?」
ニヤニヤしている俺に対して表情を変えないKだったが、目が全てを物語っている。
俺はKの前にしゃがみ、顔をのぞき込んで、
「そうか、やるか?」
Kとしては悪くない取引きだ。このままなら100%の死が待っている。だが5分の1とはいえ、助かる見込みがあるわけだからだ。
「よし。じゃぁ、俺からだ」
俺はスッと立ち上がり、自分のこめかみに銃を押しつけると躊躇無く引き金を引いた。

カチッ。

軽い音と共に引き金が落ちた。弾は出ない。
「よし。まずは5分の1は俺が勝った。次はお前だ」
そう言うと縛られているKに銃口を向けて言った。
「覚悟はいいな?」
Kはじっと銃口を睨みながらその瞬間を待った。
すぐに引き金を引くのは惜しいので、しばらく焦らしながら、Kの様子を伺った。
汗が出てきている。顔も真っ赤だ。
5秒ほど焦らしただろうか?
「いいな」
改めて念を押すとKは必死に顔を横に振っている。

カチッ。

猿ぐつわの上からでも一瞬Kのため息が漏れた。
「アハハハハ。お前は運がいいな!」
俺は高笑いと共に得意顔になった。
 俺は心の中でほくそ笑んでいた。なんてことはない、この銃には予め弾は入っていない。時間を持て余していたので、ちょっと遊んでやろうと思っただけだ。
 そうとも知らずKの怯えようったら楽しくてしょうがない。
「また今度は俺だ」
さも勇気があるような顔をして引き金を引いた。

カチッ。

当然、弾は出てこない。当たり前だ入っていないのだから。
「さぁて、あとは2分の1の確率だ。次に弾が出ればお前の負け。すなわち死だ。だが、出なければ、俺の負けだ。逃がしてやる」
 そう言って今度はKの額に銃を押しつける。Kは目をつぶった。汗は先程よりも多く吹き出している。無理もない。死ぬかも知れないと思っているのだから・・。
「よし、引くぞ!」

カチッ。

アハハッハハ!
俺は更に高笑いをしてこう言った。
「お前の勝ちだ・・と言いたい所だが、実は初めから弾なんて入っていないのさ!ほら、この通り・・」
そう言いながら、またしても自分に銃を向けて引き金を引いた。

カチッ。

当たり前だが弾は出て来ない。
「ほらな。残念だったな。助かると思ったか? 死ぬと思ったか?」
アハハハハハッ!
もう一度心から笑い声をあげている時に、急にKが縄を抜けて立ち上がった!
今にも俺に飛びかかってきそうな勢いでだ!
「お、おい、待て! 動くな!」
俺は慌てて先程Kから奪った銃を構えた。
するとKは、
「撃ちなよ。まぁ、もっとも小細工する奴には撃てないと思うけどな!」
アハハハハハッ!
今度はKが高笑いした。
「なんだとっ! お前を撃ったら情報が手に入らないが仕方ない。そこまでバカにされたら俺も黙っちゃいられない。ここで死んで貰うぞ!」
Kはまだ笑みを浮かべながら余裕でこう言った。
「どうぞ・・根性なしさん」
俺は完全に頭にきた!
「死ね!」

バーンッ!

Kはフゥーと息をはいた。まだ生きている。
「バカな男だ。その俺の銃には細工がしてあったのさ。暴発するようにね」
P国の諜報員の死体に向かって続けて言った。

「もっとも暴発する確率は5分の1だがね・・」


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