ショートショートバトル 5KBのゴングショー第236戦勝者
南大門P6
金融教皇の仰せにより、この世界の通貨は無効と相成った。 教皇の言うことなので、誰も逆らえない。 父は毎晩不機嫌で、飲むお酒の量が増えてしまった。 母は暗い顔をして蝋燭の明かりのもとで、内職をしている。 わたしは本を読みたいのだけれども、「暗いところで読んだりしたら目が悪くなる」「目の治療費なんかあると思うのか」と何度も何度も言われているので、しかたなく空想の世界に遊ぶ。 その世界には教皇は存在しない。だから父や母、それにわたしも苦しんだりはしない。空想の世界にいる時間がだんだん長くなっていく。そういえば、弟はいつから泣かなくなったのだろうか。 空想の世界では家族四人で楽しく、それは楽しく生活している。食べ物に困ることもないし、寒さに震えることもない。 でも、そんなのは有り得ないことなぐらいは、分かっている。 冬が来れば寒いし、食べ物は少なくなる。 通貨が無効になったので、きっと今年はもっと寒くひもじいだろう。 わたしがこんなことを考えているなんて、父も母もきっと知らないだろう。 子どもは通貨には無縁だ。そう家では決まっている。 でも、わたしだって友だちぐらいいる。彼らから聞きかじった通貨について、図書館で調べてみた。そして通貨が教皇によって無効になることを知った。 教皇とはなんなのか。それははっきりとは分からない。図書館にある本には教皇について書かれたものはなかった。どこか他の図書館にはあるのかもしれない。でも、それを探しに行くことは不可能だ。通貨と無縁なわたしには無理だ。いや、通貨が無効になった今は、たぶん誰にとっても無理だ。 現実世界は、どうしてこんなにも不条理で苦しいのだろう。 空想の世界は楽しい。 きっと、そこではわたしが金融教皇だからなのかもしれない。 金融教皇というのは、誰かの空想の世界に住んでいるのかもしれない。 きっとそうだ。 世界を救うには、その誰かを倒さなければ。 でも、それが誰なのかは、わたしには見つけることはできないだろう。 了 |
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