ショートショートバトル 5KBのゴングショー第116戦勝者
ピエロ
ここは某中学校。たくさんの生徒が勉強をするために通っている。 今日は定期テストの順位が発表される日。ほとんどの人が結果を聞いて後悔するのだろう。 結果の紙を見ながら、唇をかみしめる少女がいた。名を塚本紅という。 紅の順位は学年で二位。悪い結果ではない。しかし紅にとっては、屈辱以外なにものでもない。 紅は学年一位の人を知っている。名前は岡本スミレ。紅はいつもスミレに負けているのだ。 紅は昔から人見知りが激しく周りには人が寄りつかない。 しかしスミレは活発で周りには人が多く集まって楽しい学校生活を送っている。 唯一、紅が得意な勉強もスミレは紅の上をいく。 自分よりも恵まれているようで、紅はスミレが憎かった。 その日の帰り道、紅はイライラしながら親指の爪をかじった。 すると鞄の中から携帯電話が音を鳴らす。紅は携帯電話を取り出すと、乱暴に通話ボタンを押した。 「もしもし?」 「塚本……紅様ですね?」 紅は聞いたことのない声を耳にした。女性独特のソプラノの声が聞こえた。大人の女性のような声だった。 「アンタ誰?何で私の番号知ってるのよ」 「申し遅れました。私『殺人願望相談所』と申します」 何とも怪しいネーミングだろう。 「何それ?それで私に何の用?」 「あなたの憎い人を1人だけ殺してさしあげましょう」 「殺したい人?いるわけないじゃない。用はそれだけ?もう切るわよ」 「本当に……いらっしゃらないのですか?」 電話から聞こえてくる言葉に、紅は言葉を詰まらせる。 「いるはずですよ。あなたが憎くて憎くて殺したい人が」 紅は少し黙った後、静かにこう言った。 「岡本……すみれ」 その日の夜、ベッドに横になりながら紅は携帯を見た。 「バカじゃないの?あの女。そんな簡単に人が死んだら苦労してないわよ」 紅は目を閉じた。外から聞こえるサイレンの音がとても騒がしくて、しばらく寝付けなかった。 次の日。担任からあることを聞かされた。岡本スミレが死んだのだと。 原因は火事。父と母と弟は逃げられたが、スミレだけが死んだという。出火原因はまだ不明らしい。 クラスの人たちは驚いた。中には泣いている女子もいた。それだけスミレが好かれていたのだ。 紅も始めは驚いたが、その後は笑うのを抑えるのに必死だった。 憎くて憎くて仕方がなかった岡本スミレが死んだのだから。 その日の帰り道、昨日とは違って嬉しそうに紅は歩いていた。 すると昨日と同じタイミングで携帯電話が音を鳴らした。相手は非通知で誰だかわからなかった。 紅は通話ボタンを押して耳にあてた。立ち止まらずに歩きながら。 「こちら『殺人願望相談所』です」 昨日の女性の声が聞こえた。 「仕事はあれでよろしかったでしょうか?」 「うん。誰だか知らないけど感謝するよ」 「それでは代価のほうをよろしくお願いします」 その言葉に紅はえっ、と声を漏らした。 料金のことなんて聞いていない。自分が払えないくらいのお金だったらどうしよう。 紅は冷や汗を流しながらそう思った。 「大丈夫です。お金ではありません。あなたが持っている物でよいのです」 女性の声に紅は安堵のため息をついた。 「じゃあ、何を渡せばいいの?それにどこに渡すの?」 「大丈夫です。あなたは何もしなくてよいのです。なぜならそれは……」 女性は続けて言った。 「あなたの命ですから」 その瞬間、プーというクラクションが響く。そして紅の体は宙に浮いた。 しかし体は重力には逆らえずにコンクリートに落ちた。 「ご利用頂き、真にありがとうございました」 女性は嬉しそうにそう伝えて電話を切った。ツーツーという音が携帯電話から聞こえる。 しかし紅の耳には女性の声も電話を切った音も聞こえなかった。 ここは殺人願望相談所。 殺したいほど憎い人がいる人は、こちらから電話いたします。 あなたが憎いその人を1人だけ殺してあげましょう。 あなたの命と代償に。 |
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