ショートショートバトル 5KBのゴングショー
サイダー
深夜に無性に食べたくなるモノがある。 それは桜餅。 熱帯夜の夜も吹雪の夜も。 オールシーズン食べたくなるのだ。 だから冷蔵庫には常備してある。 なのに・・・。 今夜は在庫切れだった。 奴が勝手に食べたのだ。 奴は自分のベッドの中で安らかな寝息をたてている。 「起きなさいよ」 わたしは奴を小突いた。 しかし、ムニャムニャと口の中で何か言って起きようとしない。 腹が立ったので震度6で揺さぶった。 「なにすんだよ!!」 やっと起きた。 「桜餅食べたでしょ」 「・・・いや」 嘘をついているのは明らかだ。 「そうなの」 「そうだよ。だから寝させてくれ」 ブランケットをかぶり直そうとする奴の手首をつかみ 「待って。桜餅買ってきてよ」 と言う。 「えー。なんでこんな夜中に」 「だって、あれがないと眠れないの」 「一晩ぐらい、いいじゃないか」 「朝までここでぐずぐず言われるのと、さっさと向かいのコンビニで買いに行って戻ってくるのとどっちが・・・」 「分かった、分かった」 そう言って奴は起きあがってモコモコのダウンコートをスエットの上から羽織った。 そしてわたしに向かって手のひらを上にして差し出した。 「なに?」 「お金」 勝手に食べたのはそっちじゃないか、と一瞬ムっときたが、折角買いに行こうという気持ちになっている奴を変に刺激するのも何なので、自分の財布を取り出して紙幣を一枚そこから出して渡した。 「じゃあ、言ってくるよ」 そう言って奴は出て行った。 「遅い、遅すぎる」 向かいのコンビニで買い物して戻ってくるのなんて、ものの一〇分もあればお釣りが来るはずだ。 なのに、もう三〇分は経っている。 イライラしつつも、もしかしたらたまたま在庫切れで、他の店に当たっているのかもしれない、もう少し待とう、となんとか心を静める。 一時間経っても戻ってこないので、仕方がないので着替えて向かいのコンビニに行ってみる。 桜餅はあったが、奴はいなかった。 買って帰った桜餅を食したわたしは健やかな眠りについた。 結局、奴は朝になっても戻ってこなかった。 英世も一枚行方しれずのままだ。 |
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