私立探偵鮫島吾郎の憂鬱 (サンプル版)


作:鳴海昇平

 今回の依頼は、謎の資産家の家族構成を解明することだった。家族はなぜかみな別々に住んでおり、住所は分かっているが、それが本当のモノではない可能性があるということだった。
 まず、二十歳の娘にあたってみることにした。なぜこの娘からかと言うと、鮫島がスケベだからに他ならない。依頼人からの指示に従い、それの場所に向かう鮫島。しかし四国の地理に詳しくない鮫島に、その住所はむずかしかった。

 ヒント:立ち食いうどんの店を探せ そこの店名は「天命一番」

 なんかうどんというよりもラーメン屋みたいである。
 最寄りの駅はというと、それも伏せられている。四国の讃岐地方であるこは確かであるが……。メモには場所はいい加減だが、その後の方は詳細がしつこいほどに記されている。娘は近所で評判の美人である。美人にありがちな高ビーな性格で、うどん屋に住み込んでいるくせに、すぐに仕事をほっぽり出して、どっかいってしまう。チェーンスモーカーである。若いのに離婚歴あり。子供無し。前のダンナは開業医で、慰謝料はたんまりもらってようである。実家からはその結婚のせいで勘当。黒い服が好きなので、店の制服も一人黒。
 なんかこれでは見つけたら簡単そうではある。
 ここで、重要なのは、相手を探し出したあとのインタビューである。子供は本当にいないのか。いる場合、それは前のダンナの籍に入っているのか。入っていれば相続問題はまったく問題なしであるので、依頼人には簡単な報告で済む。
 そう鮫島が考え感がつつ、瀬戸大橋を渡った。空の便は、鮫島は飛行機が怖いので、パスした。というか、緑の窓口のおねぇちゃんが可愛かったので、JRにしたのだった。
 新宿からもうどれくらい経ったのか。あいにく時計を忘れてきたので時間が分からない。隣に座った老女にたずねてみた。
「あ、時間ですか」
「そうですよ、今の時間」
「時間ね。そう時間」
「だから時間教えてください」
 プイッと横を向いたまま老女はミカンを取り出して
「これ食べるかね」
とニタリと笑いつつミカンを差し出した。
 まさか愛媛ミカン……。
 なにか罠のようなモノを感じた鮫島は
「いえ、時間だけでなくミカンまでとは、そのようなことは……」
「まぁえんりょせんと」
「はぁ」
 のども渇いてきていたので、鮫島は老婦人の言葉に甘えることにした。
 ミカンを食べたあと、また居眠りしてしまった鮫島は、いつの間にか降りる駅に着いていたようである。
 慌てるまでもなく、スマートに降り立ったつもりの鮫島であったが、またもや大失敗。降りる駅の一つ前であった。
 なんか駅名が似ていたのでしょうがないじゃないか、とは鮫島の言い訳である。

 駅前で途方に暮れていても、人はただ通り過ぎていくだけである。
「あの、すみませんが」
「はい?」
 また今度も老婦人だった。今に時間帯、サラリーマンはこの町にはいないようである。まだ日が高いと言うことは三時頃か。自分が乗った切符をみればいいのではないかという突っこみもあろうが、彼は既に改札を出てしまったので時間が分からない。その上、駅の時計の時刻は明らかにくるっているし。適当に「今から乗れるの」と緑の窓口のおねぇちゃんに頼んだのが、やはり問題があったのだろう。
「なんですか、お兄さん」
「いや、あの、その、ここってあそこですよね」
 そうですよ、そんなこと聞かないの、って感じの眼差しで老婦人(言い過ぎかも知れない、単なるおばさんである)が鮫島を見たが、鮫島は
「あの、そうなんですよね」
としつこく聞く。
 老女はそのまま歩き出していった。鮫島は他に行く当てもないので、その後をつけて歩き出した。
 すると、女子高生の集団が自転車で横を通り過ぎようとした。それにつられて、鮫島は追尾ミサイルのようにヒューっと走り出した。
 きゃー、変態、変態と叫ぶ少女達を追い詰めるべく、鮫島はあの時以来の本気さで走り出していた。
 根負けした女子高生達は自転車を止め、
「オジサン、何?」
 そう言われて息の上がっていた鮫島は
「あー、そうの、はぁ、あの、はぁ」
と息もたえだえに言った。
 なんかイヤらしい……という女子高生の声が聞こえたような気がしたが、それは空耳で、相変わらずこちらをじっと見てるだけだ。
 メガネをかけた一人が
「あの、なにか私たちに用でしょうか?」
 委員長だな、と鮫島は思った。他の四人はどの子もかわいいのだが、個性に欠ける。と思ったら、委員長の影にかくれて見えなかった自転車の子は、ゲロマブだった。
「あの……」
 そう言う委員長を無視して、食い入るようにゲロマブを見つめる鮫島。彼女は完全にびびってしまっているようだ。
「あの、私の話聞いてます?」
「あ、すみません。ちょっと道に迷ってしまいましてね」
「どちらに行きたいんですか?」
「あの、ご存じかどうか分かりませんが、『天命一番』というセルフのうどん屋さんを探しているんです。ご存じですか?」  女子高生達は円陣を組み、なにやら小声でささやきあっている。
「あの、私知ってますよ」
「本当ですか。助かります」
「いえ、たぶんなんですけどね」
 田んぼの広がる農地の真ん中で、女子高生と心を通わせた鮫島であった。


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「私立探偵鮫島吾郎の憂鬱」

発 行 日:毎週月曜日
発 行 元:1999年とショートショートワンダーランド(1999+SSWL)
http://www.1999sswl.com/

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