5KBのゴングショー第三代グランドチャンピオン

「そのモナリザが泣く理由」

yas

「どうしたの?ユリ。どうして泣いてるの?今日は学校行かないの?」
私は私の前でクスンクスンしゃくり上げているユリに話しかけた。
ユリは中学生の女の子。いつも虐められている友達のいない気弱な女の子。
「嫌な事があるの?ねえユリ、私に教えて・・・」

私はモナリザ。モナリザの複製画。ユリの部屋の壁で、いつも微笑みを浮かべている一枚の絵。小さい頃からユリをずっと見守って来た私は、いつからかユリと話せるようになっていた。

ユリは私の事をモナちゃんと呼ぶ。私はユリのただ一人の友達。ユリの笑顔を知っているただ一人の存在。ユリはうれしい時も悲しい時も、いつも私に話しかける。
「ねえ、モナちゃん。今日、学校でこんな事があったんだ。えへへへへ。」
「ねえ、教えてモナちゃん。○○さんは何でわたしにいつもひどい事するんだろ?」

私はその都度、目の前の彼女に答えて来た。
「そんな事があったんだ!よかったね、ユリ。」
「許せないね、その○○さん。でも負けちゃ駄目だよ。いい事教えてあげる。人間はね。辛い時ほど笑った方がいいのよ。笑顔にはパワーがあるの。だから笑ってよ、ユリ。」
ユリは私と話す事で元気を取り戻してきた。ユリは私の笑顔を見てニッコリ笑ってくれる。私はユリの笑顔が大好きだ。私はユリの笑顔が見たくて一生懸命話しかける。
私はいつもユリの為に微笑んでいる。

だけど、今朝のユリは泣き止まなかった。
「ねえ、モナちゃん・・・今日、私○○を殺してしまうかもしれない・・」
ユリは泣きながら私に告白した。○○とはいつも辛い時の話題に出てくる同級生の女の子の名前。「○○のやつ・・もう許せない・・・今日、何かやったらもう我慢できないかもしれない・・」
「ユリ。どうして殺すの?殺さなくてもいいじゃない。今は我慢して。あなたが大人になったら忘れてしまう事なのよ。」
「嫌!もう嫌なのよ!」ユリは大声でわめきちらした。

「じゃあ、ユリ。殺すのを1日だけ我慢してみてよ。殺すのは明日にして、今日は笑って過ごして。明日殺すんだって思ってれば、今日は我慢出来るでしょ?」私はユリに言った。
そうやって毎日説得していこうと思った。1日延ばしにしていけば、きっとユリはいじめに耐えられると思った。私はユリに微笑む。
「笑って・・ユリは笑ってる時が一番可愛いのよ。いつも笑っていてよ。家でも学校でも。」
「・・・うん・・笑顔にはパワーがあるんだったね、モナちゃん。分かった。行ってくるね。」ユリはにっこり笑って涙を拭き学校に行った。

その夜、ユリは私の前に姿を現さなかった。
代わりに何人かの目つきの悪い男達が、ユリの母親と一緒に、私とユリの部屋に入って来た。ユリの母親が部屋の案内をしている。目つきの悪い男達にお母さんは色々質問されている。男達はきっと刑事達。
「お母さん。娘さんの行きそうなところ、本当に心当たりはないですか?」
「あなたの娘さんは、同級生の首をカッターで切って殺したんですよ。発作的かもしれませんが・・・笑いながらですよ。そういうふうに育てた親御さんにも問題があると思うんですけどねえ。」
「・・・すみません・・・すみません・・・」母親は泣いて謝っていた。

ユリはあれほど言ったのに、今日○○を殺してしまったのだ。私が言った事を勘違いして、微笑んだまま人を殺してしまったんだ・・
ユリはどこかに逃げてしまった。だから、この男達はユリの行方を探す為に、この部屋に入って来たんだ。
ユリに行き場はあるの?私以外にユリは友達がいないのに・・どこに隠れているの?

「それにしても変わった絵ですね。モナリザのパロディですか?」
刑事の一人が私を指差して言った。母親も私の顔を見て驚いた表情を見せる。
「そんな・・そんなはずは・・・どうして・・・?」
「このモナリザ、泣いてますね。お母さんが買ってあげたものですか?」
「いえ・・私が買ってあげた物は・・普通の微笑んだ物でした・・・どうして・・?」
お母さんはその夜、取り調べの為に警察に連れて行かれた。お父さんも一緒だ。

そして誰もいなくなった部屋にユリが帰ってきた。
手に血塗られたカッターを持って。顔や制服に血をたくさんつけたまま。
「ねえ。帰って来たよ、モナちゃん。わたしねえ、モナちゃんの言うようにどんな辛い事があっても笑えるようになったんだよ。」そう言って私に微笑んだ。感情のない覚めた笑顔に血糊をいっぱい付けて・・
「ねえ、モナちゃん・・なんで何も言ってくれないの?いつもみたいに喜んでくれないの?」
私は何も答えなかった。ただただ悲しくて・・私は何も言えなかった。
「・・モナちゃん・・・どうして泣いているのよ・・いつもみたいに笑ってよ!ねえ・・泣かないでよ・・」
ユリは大きな声で泣き始めた。私も泣いた。私達はユリが警察に保護されるまで、その夜、朝まで声を出して泣いていた。


私は今、ある会社の応接室の壁に掛かっている。事件の後、ユリの両親から、この会社の社長に買い取られたのだ。社長は珍しい絵のコレクターだった。
「でも、なんでこのモナリザ泣いとるんだろうのう?」
「さあ?でも社長、面白いパロディ画ですよね。まあ、女なんてすぐ泣く動物ですからね。どうせ、つまらん理由ですよ、あははは。」「しかし、このモナリザ見とったら本当に悲しくなるのう。」
私は新しい持ち主達の笑顔は大嫌いだ。彼らには微笑んでやる気は起きない。

私はユリの笑顔が大好きだった。だからユリだけの為に微笑み続けた。
ユリはもう2度と私と会う事はないだろう。だから・・もう微笑む必要はない。
ユリはこれからどこでどうやって生きて行くのだろう・・?どんな大人になってしまうのだろう・・?
彼女はもう2度と笑う事がないのかもしれないね・・私はユリの笑顔が本当に大好きだったのに・・・

それから私は色々な人のところへ買い取られて行ったけれども・・最後に、捨てられて焼却されるまでユリのために泣き続けていた。

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