ショートショートバトル 5KBのゴングショー第97戦勝者

「治せない医者」

斗駒の若

せっかくの土曜休みの朝だというのに最悪の目覚めであった。
昨日の夜、調子にのって自慢のカレーライスを食べ過ぎたようだ。
さすがに大鍋いっぱいは無理があったか、ものすごく腹が痛い。
朝から何度トイレにいったことだろうか。もう腹からカレーは出ない。
なのに腹の痛みは治まらない。

仕方がないので何年振りかで病院へ行くことに。
自然と足が松嶋医院へ向かった。
通勤途中で見かける病院で憧れの菜々子チャンと同じ苗字。
ただそれだけの理由。

待つこと20分。痛みは更に増してきて嫌な汗が出てきた。
名前を呼ばれ診察室へ入る。
あれっ?なっなっなんと!菜々子チャンが白衣を着て座っているではないか!
いや、正確には菜々子チャン似の美人女医が目の前に座っている。

「どうされましたか?」

ちょっと鼻にかかった声までよく似ている。昨日のカレーライスの話をすると、

「それは食べ過ぎですよ。おなかが痛くなってあたりまえです」
と子供をあやすようにちょっと睨まれた。すいませんと素直に謝ると、

「そんなにおいしいカレーライスなんですか?」
とカルテを書きながら横目でニコリと笑った。

「今度、ぜひ食べに来てください!」
と言いたいところであったが、心の中でそうつぶやくだけで我慢した。

当然のごとく食べ過ぎによる食あたりと診断された。

「お薬出しておきますからね。症状がよくならないようでしたらまた来てくださ
い。」

はいと照れくさそうに答えると、

「私もカレーライス大好きなんです。ついつい食べ過ぎちゃいますけど、ほどほどで
我慢して下さいね」
と微笑みかけてくれた。

帰り道、いつの間にやら腹の痛みは消えていた。
天は二物を与えてしまったとはあの人のようなことを言うのだろう。
美しさ、やさしさを兼ね備えた、人を痛みから和らげてくれるお医者さん。

「まだ薬も飲んでないのに。あの先生の力かなぁ。ん〜すばらしい人だ!」
と独り言をいいながら晴れわたる空を見上げて背伸びをしたその瞬間・・・
「痛いっ!」激しい痛みが走った。

あれれっ、なんてこったい・・・また痛みが・・・
あの人は痛みを治せない医者のようだ。
腹の痛みは治まったが、今度は胸がずきずきと痛みだしてきた。

「今夜もカレーライスをバカ食いするかぁ」

腹が痛くなればまた松嶋医院へ行ける・・・
またあの先生の診察が受けられる・・・
そう思うとまた胸が激しく痛んだ。

はたして、あの先生はこの恋の病を治せるであろうか。

カレーライスの食材を求め、自然と足がスーパーへと向かっていた。



※この物語はフィクションであり、登場人物は架空の存在です。


END


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