ショートショートバトル 5KBのゴングショー第93戦勝者

「願い、三つ。」

なお

 僕は彼女が好きだ。

教室の隅で、じっと姿を追い続ける。

快活な話し方も、意志の強そうな眼も、大雑把な身のこなしも、

大勢の友達に囲まれて楽しそうな笑い声も、

僕の心を捕らえて離さない。

彼女は僕なんか見ていないけれど、僕は彼女を見ている。



 そんな時、魔法のランプを拾った。

三つの願い事を叶えてくれるというやつだ。

僕は一つ目の願いを即座に言いつけた。

「彼女を、僕のそばにおいてくれ」



 かくして、彼女は僕だけのものになった。

起きている時も寝ている時も、いつも一緒だ。

横を向けば、あんなに焦がれた彼女が笑っている。

僕は堪らなく嬉しくて、今まで一度も呼んだことの

なかった彼女の名前を、幾度も呼んだ。

彼女が僕の言葉に答える、僕の表情を見つめる。

僕はすっかり幸せな気分になって、腕の中に

おとなしく収まっている彼女に、優しく尋ねる。

「ねえ、君は僕が好き?」

「いいえ。」

僕はびっくりして問いただす。

「え!じゃあ何故ここにいるの?」

「願い事だからよ。」

唖然としたが、納得もした。



僕は慌ててランプの精に二つ目の願いを言った。

「彼女が、僕を好きだと言うようにしてくれ」



 それからは、暇さえあれば彼女は僕に愛の言葉を捧げてくれた。

好きよ、愛してる、あなたしかいらない。

僕の心の壷は、彼女の甘いささやきで満杯になっていった。

みずみずしい幸せが胸いっぱいに広がる。

僕は再び彼女に優しく尋ねる。



「ねえ、君は僕が好き?」

「ええ、好きよ」

「何故だい?」

「何故と言われたって、分からないわ」

「理由はないっていうのか?」

「ないわ。だってあなたの願い事でしょう」

満たされた心の壷に穴が開き、甘美な夢は流れ出ていく。

僕はため息と共に彼女の身体を離した。



「ランプの精、三つ目の願いだ。彼女を元に戻してくれ。」

「いいんですか?最後の願いですよ?」

「いいんだ。」



相変わらず、教室の隅で僕は彼女を見つめている。

僕を好きだと言った口で、何事もなかったように友達とおしゃべりをしている。

それでいいのだと思う。

彼女と僕は、一緒にお茶を飲んだことも、映画を観に行ったこともない。

面白がって冗談を言い合うことも、夢を語り合ったこともなかった。

まずは、おはようと声をかけてみようか。

そこから本当の何かが始まるのかもしれない。

 

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