ショートショートバトル 5KBのゴングショー第92戦勝者

「奇形霊」

芹沢倫

ある中学校舎の二階には、封鎖されている教室が一つだけある。
戸には板を打ち付けられ、窓はガムテープで貼りつけられたビニールシートで塞がれ
ていた。何故封鎖されているのか、教室の中には何があるのか、誰も知らない。教え
ないのではない。“知らない”のだ。
何人かの生徒が、その教室への侵入を試みたが、その全員が途中で挫折した。誰も止
めないのに、だ。
何かがその部屋への侵入を拒んでいる。そういう噂までたった。

俊哉という少年は別に、その教室に興味があったワケではなかった。
ただ、忘れ物を取りに夕方の学校に戻ってきていた。自分の教室に戻る途中、その教
室の前を通った。しかし、その時は気にもとめていなかった。
さっさと用事を済ませ、家に帰る事しか頭に無かったからだ。だが、再びその教室の
前を通ろうとした時、一人の少女がそこの前に立っているのに気付いた。
少女は幼馴染の恵美だった。
「何、してんの?」俊哉が通りがけ、ぶっきらぼうに聞いた。
「この教室に入りたいんだけど…」恵美は間髪いれずに答えた。
(変な奴だなあ)俊哉は思った。
昔から、恵美はこういうオカルトの類には目が無かった。
ふとその教室の戸を見ると、意外と中に入るのが無理。という感じではなかった。
打ちつけられた板は腐って、今にも剥がれそうだった。俊哉は、今さっき教室から
取ってきた彫刻刀を取りだし、板を次々と削った。すると、錆びた釘も少し緩くなっ
た。俊哉は板を次々と外し、戸に手を掛け力を入れてみた。と、呆気なく教室の戸が
開いた。そのあまりの呆気なさに恵美はぽかんと口を開けていた。
「入れば?」俊哉が言うと、恵美は無言で中に入っていった。
こういう時の女は、意外と躊躇無いものだ。
俊哉はその教室に興味は無かったが、ちょっと覗きたいという気持ちもあった。なの
で、次いで中に入っていった。


教室の中には何も無かった。夕方の光がシート越しにうっすらと入っていたので、暗
くも無かった。そこは単に俊哉たちが普段使っている教室から、机と椅子と黒板を無
くしただけの部屋だった。だが、異常にほこり臭かった。霊に対する恐怖心よりも、
そっちの方が凄くて、俊哉は思わず部屋を飛び出した。
一分後、恵美は教室から出て、咳き込む俊哉をちらっと見た。そして、無言のままそ
の場を去っていった。
俊哉も、教室の戸を閉めると、そのまま学校を後にした。

帰宅途中、俊哉は少しだけ優越感に浸った。誰も踏み入れた事の無い領域に、踏み
入ったのだ。
家に帰ると、着替えもせずにそのままベッドに横になった。
(それにしても意外とあっけなかったな)俊哉は、欠伸をした。その時、口に当てた
手を見て、震えた。

指が、ありえない形で曲がっていた。……痛みは無い。

俊哉は、急いで鏡を見た。


ありえない形で曲がっていたのは指だけではなかった。


俊哉は、思わず鏡を力いっぱい殴りつけた。
信じたくない、その一心で。

しかし、鏡は割れず、むしろ自分の拳が鏡を這う様に変形している。
「…………………!!」
叫びたくても声が出ない、体中から冷たく乾いた汗が吹き出る。
俊哉は家を飛び出し、恵美の家に向かった。

恵美はどうなっているんだ!?

何よりもそれが知りたかった。こんな姿を見たら、恵美はどう思うだろうか?そんな
ことは考えなかった。
恵美の家に着くなり、チャイムを鳴らしまくった。幸い、恵美の両親は、海外にいる
ため、直に恵美に会える。

何回目かで、やっと戸を開けた。
「何ですか?非常識ですよ?チャイム鳴らし過ぎなんて……」
「……………………!!!!!!!!!」

 

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