ショートショートバトル 5KBのゴングショー第86戦勝者

「感謝の言葉」

shuto

私の趣味は旅行である。定年になってお金も時間も純分に取れるようになり私はいろ
いろなところに旅をした。あるとき私は南米のほうへ行った。そしてある町へ立ち
寄ってみた。飛行機で現地まで行く。空港に着くと一人の青年が私を待っていた。私
が旅行会社に頼んだガイドのようである。

「お待ちしておりました。橋本様ですね。本日専属ガイドを勤めさせていただく、マ
イケルといいます。よろしく。」

英語を軽やかに話し彼は手を前に出した。

「こちらこそよろしく。」

そう答え私と彼は握手した。

「ではこちらへどうぞ、車を用意しておりますので。」

彼に言われるままに車に乗る。私は窓から外を眺めていた。故郷日本のような木でで
きた家が多いようである。耳を澄ましていると聞きなれない言葉が聞こえてきた。私
は世界各地に旅行に行くがこんな言語は初めて聞いた。私は彼に話しかけた。

「この町の言語は聞いたことが無いわね。」

「ええ、アダデカエス語と言ってこの町だけの言語です。この言語の変わっていると
ころは感謝の言葉が無いことなんですよ。」

「感謝の言葉が無い。どういうことかしら。」

「つまり、ありがとうやThank youといった言葉が無いんです。」

「でも恩を受けたりしたらどうするの。」

「まあそのうちわかりますよ。日本のことわざにもあるぐらいだし。」

私は疲れていたのでそれ以上聞かずすこし寝ることにした。

そしてホテルで一泊し、次の日からマイケルとともに観光をした。

食事から施設にいたるまで何から何まで私の興味を引くものばかりだった。そして十
分に楽しみ私は次の旅行先へ向かうことにした。

マイケルは空港まで見送りに来てくれた。

「とても楽しかったわ、Thank you。」

マイケルすこし戸惑ったように見えた。

「またお越しください。」

すると彼のポケットから財布が落ちた。彼は気づいていないようである。

「財布、落ちましたよ。」

私は財布を拾って彼に渡した。

すると彼はいきなり私のバッグを引ったくりそのまま走って行ってしまった。

あまりに突然のことで私は呆然とした。しばらくして私はハッとしてすぐに空港警察
に助けを求めた。幸い警官は英語を話せるようだ。

「バッグを取られたんですか。ところであなた、そのマイケルっていう人に何かしま
したか。」

「何かって財布を拾ってあげましたけど。」

「じゃあ仕方ありませんね、あきらめてください。」

「仕方ありませんねって・・・犯罪を見逃すのですか。」

「あなた、この町の言語のことをご存じでしょう。」

「感謝の言葉が無いってことですか。それがどうか・・・・あっ。」

私はそれ以上何も言わず空港へと向かった。

見事私は恩をあだで返されたのだった。


 

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