ショートショートバトル 5KBのゴングショー第82戦勝者

「SLEEPLESS NIGHT」

せりざわ倫

夜中に目が覚める。
まどろんでいたはずなのに、いつのまにか目が覚めてしまった。
時計の針の音が、大きく聞こえる。実に耳障りだ。
布団に包まれていた体は、温もりを失い、冷え切った。このままでは、寝ようにも眠
れない。非常に困った。
とりあえず、用でも足そうかと、布団をのけて、部屋を出る事にした。

廊下は、ぼんやりと暗い。
こんな時、子供の頃ならば、眠っている親でも起こして、ついて来てもらっていただ
ろうが、生憎今となっては、それも出来ない。それに、一人で暮らしているため、親
はいない。
便所の明かりをつけると、目が眩んだ。それでも、しばしばする目を何とかこじ開
け、用を足す。用を足し終えると、手を洗い、再び部屋に戻った。
すっかり冷えたその体を布団に潜り込ませると、体中に幸せな温もりが甦ってくる。
まどろみ始め、うとうとしている。
いいぞ、これで眠れる……。


しかし、甘かった。何度か寝返りを打っているうちに、再び目が冴えてきてしまった
のだ。ふと目覚まし時計を見ると、あれから、時間はあまり経っていない。これは
困った。明日の朝は早いのだ。

仕方なく、テレビをつけてみた。テレビの光が目に射し込む。ブラウン管の向こうで
は、若いタレントや芸人が、他愛も無い、非常に下らない事を、一所懸命にやって
いる。その様に、いつのまにか、口の端が笑みを浮かべていた。

その番組が終わるまで見ていたら、眠くなってきた。これで、今度こそ眠る事が出
来る。そう、確信した。テレビを急いで消し、目を閉じた。
今度こそ眠れる……。
しかし、いくら待っていても、暗闇の先にある意識が眠ろうとしない。頭の中では、
色々な映像が、目まぐるしく視覚神経に訴えかけ、その映像が浮かんでしまう。
まるで、テレビのコマーシャルのようだ。
ついに根負けし、目を開いてしまった。そして、その目はまた冴えてしまった。


こうなったら、一晩中起きていよう。もう、そう開き直るしかない。睡眠薬なんて洒
落たものは所持してはいない。
その時は、部屋から出て、リビングに向かうまでの廊下が、何故か暗いとは感じら
れなかった。
リビングに着くと、電気もつけずにソファーに座り込んだ。軽く、深呼吸なんかをし
てみる。もう、眠気など、微塵も無い。
こういう、夜更かしみたいな事はあまりしない。ただ、今回に限っては、眠れないに
も程がある。それに怒っても、仕方が無いのは、百も承知だが。
それにしても、こういう時、子供の頃なら、まだ何かドキドキするような事もあった
ろう。が、今となっては退屈なだけである。頭の中は、眠れない苛立ちと、明日の
仕事についてでいっぱいだ。とにかく、一分一秒が長い。気持ちを抑えるため、煙
草に火をつける。
とりあえず、パソコンをたちあげることにした。
淡い光が、部屋を照らし始める……。

パソコンを使っていると、時間の流れが早い。あっという間に一時間が経ってい
た。この調子でいくと、日が昇り、すぐに朝になるだろう。
その時、キーボードを叩きながら、ふと思った。


時が経つのは、何故、こうもアバウトなのだろう?


大人になるにつれて、何故か世界がつまらなくなった。それは、時間が早く過ぎて
しまうからだ。生きていられる時間に追われ、一分一秒が泡のように消える。明日。
明後日。気が付けば、もう一年。大袈裟ではない。本当の事だ。
あの頃は、子供の頃は、時間なんて気にしなくても長かった。ついさっきの様に。
そして、楽しかった。いつまでも遊んでいられるような気がしていた。


不意に、パソコンのスイッチを切ってみた。
淡い光が消え、辺りは再び暗闇に戻った。その途端、周りの雰囲気が落ちついた
ような気がする。
しばらく、こうしていよう。
煙草を揉み消し、この暗闇の中で朝を待つ。その長い時間。久し振りに感じる長い
時間を今は、何故だか感じたかった。

 

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