ショートショートバトル 5KBのゴングショー第8戦勝者
すえぽん
僕は、その日もやはりパソコンをいじっていた。 そう、インターネットってやつだ。 パソコンは、去年の暮れのボーナスで買った。 買った理由? その1:流行っていた。 その2:まぁ興味もあった。 その3:驚くほど安かった。 その中でも一番の理由は「その3」だ。 今思えば安さにつられて買ってしまったのがそもそも悲劇の始まりだったのかも知れない・・・ ある日、会社からのいつもの帰り道に見たことのないパソコンショップを見つけて、 フラッと寄ったんだ。 値段は、19800円だった。 見たこともない不可思議な形をした真っ黒い一応デスクトップ型のパソコン。 なんでも、あるメーカーで試験的に作ったマシンで、製品として市場に出ていないが、 充分使えるしっかりしたモノで、諸事情有ってメーカー名も伏せられているとか・・・ ま・ボーナスも入ったことだし、19800円くらいなら無駄にしてもいっか! なんて思って買ってきたんだ。 家に帰って早速電源を入れると、Windowsが起動してライセンス表示・・・ なぜだかすでに僕の名前がしっかり登録されてた。 ちょっと気味が悪かったので店に行ってみると、店は跡形もなく無くなってた。 ちょっと気味が悪かったのだがパソコンとしての機能は申し分ないどころか、 友人の話を聞く限り、このパソコンは処理速度が市販されているモノの4〜5倍の早さらしいし、 1週間もすると、ほとんど気にならなくなっていた。 そして、僕はその日ネットフレンドの運営している文学系サイト「Nの部屋」に小説を投稿しようと、 エディターを開いて文章を作っていた。 同じ文章の繰り返しを一々打ち込むのは面倒なので、新しく覚えた技を使う。 といっても、いわゆるマウスのドラッグってやつだ。 恥ずかしい話だが、僕はこの機能をつい最近まで知らなかったのだ。 文章を半分ほど書き終わったところで、おかしな事に気づいた。 マウスでドラッグしていると、カーソルが画面の外まで動いていくのだ。 初めは安モンだからこんなこともあるんだなぁ・・・なんて思ったんだけど、 ふと見るとモニタの後ろ・・・つまり壁なのだが、その壁が紺色に変わっているのを発見した。 え? なにぃ? 何気なく「切り取り」をクリック。 まさかな・・・なんて思って壁を見るとそこに壁はなくなっていた。 あわてて貼り付けをクリック。 元に戻った。 なんだぁ? ほんとかよ! その後何回か試したが間違いない・・・このパソコンは画面の中の2次元世界だけでなく、 3次元の実世界にまで影響を及ぼすみたいだ。 僕は一つの遊びを思いついた。 自分自身をコピーしてみたらどうだろう・・・? いろんな事がやれるぞ・・・ ちょっと怖かったが、興味がわいてしまったモノはどうしようもない。 僕は慎重にカーソルを僕自身に合わせドラッグを始めた。 つま先から膝までが紺色に変わる。 腰、胸、腕、そして遂に頭まで紺色に変わった。 マウスを操作している右手の人差し指を離し、中指で右クリック。 ホップアップしてくるメニューは画面の中だ。 カーソルの先をコピーに合わせて、左クリック・・・ と、その瞬間、僕は確かに見たんだ。 ホップアップしたメニューの中の項目が、全て「切り取り」に変わってしまったのを・・・ そう、僕は今クリップボードの中にいます。 今、実世界に僕の実体はありません。 実体がないから「貼り付け」をクリックすることもできません。 今の僕に出来ることと言えば、誰かにこのパソコンの電源を切られないように祈ることと、 このようなメールをあなたに出すことくらいです。 でも、わかりません。 方法が見つかれば、あなたのブラウザの中にお邪魔することがあるかもしれません。 不可思議なプラグインを持って・・・・・ 完 |
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