ショートショートバトル 5KBのゴングショー第79戦勝者

「点かないライター」

浦戸シュウ

 気がついたとき、ぼくは振り回されていた。
「ちっ、あのコンビニ、不良品をつかませやがって」そんな音とともにぼくはほおり投げられた。
ブゥオーと音を立てて、ぼくを投げた奴は去った。そこは固い地面で、たくさんの光が降り注いでいた。
「ライター、みっけー」何かがぼくを抱き上げた。
「やめなさい! あぶないでしょう」ぼくはひったくられた。
「道端に投げ捨てたら、子供が拾って火遊びをするって、どうして思いつかないのかしら。もう、想像力がないんだから……。あれ、点かない」
「ママ、使わせてよ。ねぇ、いいでしょう」
「じゃ、特別にこれ、こうちゃんのにしてあげる。パパのはもういじらないでね」ぼくは、最初に抱き上げた子供に手渡された。子供はぼくを何度もかちゃかちゃ言わせた。そして満足そうに握りしめた。
 翌日からぼくは『こうちゃんのたからばこ』と書いてある箱がねぐらになった。こうちゃんは毎日幼稚園という所に通っている。帰ってくるとぼくを真っ先に取り上げる。ぼくの火打ち石が火花を出すのをあきもせず眺めている。ぼくの体には燃料はたくさんある。燃料が火花のところまで行かないのだ。ぼくは自分が火を点ける道具であることは知っている。でも、今まで一度も火が点いたことがない。点かなくてもなんの不自由もない。こうちゃんはぼくをそーっと扱ってくれる。
「こうちゃーん、おやつよー」ママに呼ばれて、こうちゃんはぼくをローテーブルの上に置いた。こうちゃんの家には、ごはんを食べるテーブルは別にある。こうちゃんがおやつを食べているうちに、パパが来た。テレビのスイッチを入れる。ゴルフを見るらしい。たばこをくわえて、ぼくを手に取った。火を点けようとする。何度も試した。
「おい、ライター、壊れてるぞ。新しいやつ買っとけよ」パパはママに声をかけた。
「壊れてないよ。それ、こうちゃんの」こうちゃんが抗議する。
「火の点かないライターってのは、役に立たないんだよ」
「ぼくと遊んでくれるもん。役に立ってるもん」
「ばかだなぁ。火を点けるためにあるものが、他のことで役に立ったって意味ないんだ」
「……ば、ばかじゃないもーん」ついにこうちゃんは泣き出した。ママが台所から出てきた。テレビの横のサイドボードから、新しいライターを出してパパに渡した。
「子供泣かせて遊ばないでよ。そんなことどうでもいいでしょ。こうが喜んでるんだから!」パパは鼻の頭をかきながら、うつむいている。思い出したように、タバコに火を点けた。
 ぼくはライターの火が点くところを初めて見た。黄色を芯に、多彩な炎が踊り、ゆらめく。あまりのきれいさに心を奪われた。ぼくは本当はこんなに素晴らしいものを産みだせるのだ。ぼくの心の中に、小さな穴が出来た。火を点けることの出来ないぼくは、ライターとして存在理由がないのではないだろうか……。
 こうちゃんの家に来て三か月くらいたった頃、ママの友達が遊びに来た。ママはぼくのことを話した。友達はぼくのことをしきりに聞いている。ママはぼくを『こうちゃんのたからばこ』の中から出した。もう、こうちゃんは一か月もぼくと遊んでくれない。
「ごめんね。こうはもう飽きちゃったみたい。あんたの燃料危ないから、いつまでもあそこにいてもらうと心配なのよ。火事の原因にならないかって。ごみにぽいってのも気がひけるけど、いつまでも置いておいても……。さよなら」ママはぼくを友達に引き渡した。
 友達はぼくを連れ帰った。男の人がいた。
「はい。プレゼント」
「おれ、禁煙したって言ったじゃないか」
 男の人はぼくをいじった。火が点かない。
「うん、ずっと禁煙してもらうためのアイテム」
 ぼくはどうやら存在理由を見つけてもらえたらしい。

 

作者のサイト:http://www6.ocn.ne.jp/~tukasa01/index.html

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