ショートショートバトル 5KBのゴングショー第76戦勝者

「有名人になる方法」

せりざわ倫

私のクラスに、N君という男子がいる。
彼はとにかく目立たなくて、いつもそこに居るか居ないのか分からないほどだった。
仲間外れ。というレベルのものでは無かったと思う。


例えばこんな話がある。
以前学校で、ちょっとしたボヤ騒ぎがあった時、学校中の生徒職員一同が校庭へ
避難した。
その時、各クラスでその場に全員居るかを確認したのだが、私たちのクラスだけ一
人少なかった。でも、誰が居ないのか分からないということが起きた。
勿論、居なかったのはN君だったのだが、誰一人として彼を思い出せなかったの
である。
そのとき、N君は煙の立ちこめる校舎の中に一人取り残されていた。
彼はその場から自力で脱出し、事無きを得たのだが、この話は今思い出しても、ひ
どい話である。


そんなN君には特別な友達も居なくて、学校へ行く時も、弁当を食べる時も、下校
の時でさえも、いつも独りぼっちだった。
でも、誰もが当然の様にそれを気にもとめなかった。いや、彼のことを少しでも考え
る人なんていなかった。


ある日、私はたまたま校舎の屋上でN君を目撃した。
彼は、金網の所で右往左往していた。
不意に私は、彼が何をしているのかが気になって、「何しているの?」と声をかけ
た。すると彼は驚いた様に後ずさった。そして「秘密」とだけ言って、何処かへ行っ
てしまった。
私は屋上に一人取り残された。つと空を仰いだ。
その時の空は、太陽に、少しの雲が被さっていた。


それから数日後のことだった。
私が学校に投稿すると、私の下駄箱に手紙が一通入っていた。ラブレターかと思
って、いそいそと開くと、中には一文“今日最初の休み時間に屋上に来て下さい”と
達筆な字で書いてあった。
私は胸を高鳴らせながら今日最初の休み時間に、屋上へと足を運ばせた。
だだっ広い屋上に、ぽつんと誰かが一人立っていた。
私が近寄ってみると、そこにいたのはN君だった。
私はがっくりとして、N君のところへ行った。すると彼はいきなり私の手を握るな
り、興奮した様子で話し始めた。
「よく来てくれたね!嬉しいよ。実はねえ、君にちょっと見てもらいたいものがあっ
たんだ。こんな僕に話しかけてくれたお礼とでも思ってよ」
今まで、こんなに喋るN君を私は見たことが無かった。彼はどちらかと言えば無口
な方だった。それも彼を目立たなくさせる要因の一つだったのだけども。
N君は話し終えるなり、急に金網をよじ登り始めた。
私が思わず「あっ!」と言うと、N君はこっちを振り向いて笑った。
「心配することは無いよ!僕はこれからちょっと有名人になるだけだから」
そう言うと、N君は金網を登りきり、向こう側へとまわった。
私は金網に近寄っていったが、何も言えずに、そのまま彼の行動を見守る事しか
出来なかった。
N君は私に背を向けたまま言った。
「僕は今まで、透明人間と同じ様な扱いを受けてきた。でも今日こそは違う。僕は
一夜限りでも有名人になるんだ!」
と、N君は私の見ている目の前で、まるでプールに飛び込む様に、屋上から飛び
降りた。あっという間に地面に叩きつけられると、赤黒いものがN君のまわりにじわ
じわと広がっていった。草や花がその色に染まっていくのが、屋上からでもハッキリ
と分かるほどであった。


しかし、周りの人はそんなN君の横を平気な顔で通りすぎていった。
何故か、彼に気をとめる人はそれからも誰一人として現れなかった。
N君は死んでも透明人間のような扱いをされるのだろうか?
私は人知れず、屋上で泣いた。


やがて、授業開始のチャイムが『キーンコーンカーンコーン』と鳴り出した。




 

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