ショートショートバトル 5KBのゴングショー第72戦勝者

「花葬」

せりざわ倫

卯月彩子のお葬式は、しめやかに行われた。
彼女が、まだ15歳の若さで、この世から去ってしまった事を悔やんで、彼女の親族
の人々は、おいおいと泣きつづけている。
それを見ると、僕にはこみ上げてくるものがあった。

僕は、再び彼女の死に顔を、棺の外から覗き込んだ。
その生気の無い、透き通る白い滑らかな肌は、蝋人形を連想させる。
彼女の棺には、まるで花畑に居るみたいに沢山の花が飾られていた。
そう、まるであの時の様に・・・・。


僕が卯月彩子に出会ったのは、去年の春であった。
その当時の彼女はまだ元気で、花を愛する綺麗な少女であった。

花が好きだった僕は、彼女とすぐに友達になれた。
他の奴らからは、色々言われて、からかわれたけど、僕たちはそんな事を気にせず、
二人だけの世界を楽しんでいた。
そしていつしか、僕にとって卯月彩子は、とても大きなものとなっていた。

彼女から病気だと告げられたのは、そんな矢先の事であった。

僕は驚いたが、それでも彼女は健気に笑って見せてくれた。
本当は、もうそんなに長くはない事を知っていたのに。

やがて、まるで悲恋小説の筋書きの様に、彼女の病気は重くなって、ベッドから一
歩も歩けない状態にまでなってしまっていた。
聞いた話だと、今の医学でも、彼女を治すことは不可能らしい。

僕は1日たりとも、彼女の見舞いに行かなかった日は無かった。
卯月は、僕が来ると嬉しそうに、花の話ばかりしていた。
僕はそんな彼女が愛しくて愛しくて、たまらなくなっていた。
ずっとこのままで居たかった。

しかし、その日はやって来た。
彼女の意識が、プツリと途絶えてしまったのだ。
医師は、もはや諦めていたし、彼女自身も、仕方の無いことだと言っていた。
でも、僕には・・・・


ふと周りを見ると、辺り一面、美しい花々が咲き誇っていた。
彼女はそこで微笑んで、僕を誘っている。
僕が近付いていくと、彼女は満面の笑みで、僕の手を取り、踊り始めた。
そこに一筋の風が吹いた。
花びらがその風に乗り、僕らの周りに降ってくる。
僕らは、花の中でいつまでも踊りつづけていた。


ふと周りを見まわすと、そこは暗い病室だった。
そこで僕は、生命維持装置をつけた卯月と目が合った。
確かに彼女は微笑んでいた。
あの降ってくる花の中で、微笑んでいたのと同じ様に。
そして、ピーという音が病室に鳴り響いた。


卯月の棺が、今霊柩車に運ばれている。
僕はそれを見届けながら、ポケットの中へ手を入れた。
そこから、一枚の花びらを取り出した。

あれは、果たして悲しみに暮れた僕が見た、幻覚だったのだろうか?
だけど、今は、そんな事はどうでもいい。

ただ、僕は彼女と踊った。
卯月の死の直前に、僕らは踊ったんだ。

夜空にかざした花びらに、彼女の笑顔が見えるような気がした。

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