ショートショートバトル 5KBのゴングショー第69戦勝者

『世界が終わる時、僕らはここに』

せりざわ倫

避けようと思えば避けられた運命だったのかもしれない。と、未だに僕は思う。
でも結局の所、人々は自分たちの愚行を反省しきれなかった。
いつから地球はこんなに空気の薄い惑星になったのだろうか・・・・。

「早く宇宙船に乗らないと置いていかれるよ?」
麻美はぽかんと口をあけながら空を眺めている僕に話しかけた。
「うん。もうちょっとだけ・・・・」
「もう!」
僕の素っ気無い返答に多少彼女は怒ったようだ。可愛らしい瞳が吊り上がる。
そんな彼女の表情を見ていると楽しい。ああ、生きていると思えるからだ。
「じゃあ先に行ってるからね」と、麻美は僕に言い残しこの場から離れていった。
相変わらず僕は雲の無い安っぽい銀細工のような色をした空を眺めていた。

地球はもう死に絶えていた。
人類がやってきた様々な環境破壊のお釣りが徐々に地球を蝕んでいたことに誰一
人として本当に気付いていたものはいなかった。
生物が絶滅し、緑が消え去って初めて地球の事を救おうとした。
だが、もう既に手遅れだった。やがて人々の数も減り始めた時、ある1つの朗報が
人々を震撼させた。
地球と良く似た、生物がちゃんと住める惑星を発見したのだ。
そして人類が出した結論がこの地球を捨ててその惑星へ移住するというものだっ
た。しかし、それ以外に方法が無いのもまた事実であった。
今日は僅かに生き残った人類が宇宙船『メシア』に乗りこみ、地球から旅立つ日で
あった。

僕はあまり気乗りしていなかった。
生まれ故郷を捨ててまで、こんなになった地球に何1つの謝罪もしないままで、どう
して簡単に他の惑星に移住できるのだろうか?
転校するときでさえ、クラスの仲間と別れるのが辛いのに、どうして地球を惜しむ人
がいないのだろうか?人間は恐ろしい生き物だという事を改めて僕は思った。
あ、麻美は除いておこう。
そういえば彼女と付き合ってもう2年か・・・・。長い様で短かったなあ。
何の取り柄も無かった僕に彼女はいきなり「好きです」と告白して、それから色々
あって今に至る。
思えば麻美は不思議な少女だ。例えは悪いかもしれないが、古い洋館に住む幽霊
みたいだ。どこか幼くて、それでいて透き通っているような感じで。

僕はすっと立ちあがると宇宙船とは反対の方へ歩き始めた。
やがてだだっ広い空き地に辿り着いた。ここにはほんの僅かながら緑が残ってい
た。僕はその緑の中へ寝転んだ。
このまま僕は一人でも地球に残ろう。その時僕は本気でそう思った。
これが僕がこの地球に出来る唯一の謝罪だから。
やがてそのまま眠り込んでしまった。

僕はけたたましい轟音で目が覚めた。見上げると宇宙船『メシア』が空をどんどん
翔け上がっていた。
ああ、これで僕は地球に独りぼっちだ。
「もう!やっぱりこんな所にいた!」
え?もう地球には誰もいないはずだ。声のした方を振りかえるとそこには麻美が立
っていた。相変わらず可愛らしい瞳がこちらを睨んでいる。
「ま、麻美?どうしてここに?」
「あなたを置いて地球を去るわけにはいかないでしょ?」
気付くと僕は彼女を抱きしめていた。僕は思わず彼女がとても愛しくなった。抱きし
められずにいられなかった。

世界が終わる時、僕らはここにいた。

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