「ええ〜、もう帰ってこいですって?ちょっと待ってよ!いくらなんでも急すぎんじゃないの。私はまだ帰りたくないわけ。え?なんでかって?だってここすごく居心地いいし周りの人達だってすごく親切なんだもん。
このまえなんてどこかのお偉いさんの息子からえらく気に入られちゃってさ、なんでも欲しいもん買ってくれんの!最高だよ、ここ。さすが大都市ってかんじ、でもその人あんましタイプじゃなかったんだよね、だからプロポーズされたときどうしようか焦ったけど、結局無理なこと言って諦めてもらちゃった。え、結婚詐欺?そんなんじゃないよ。むこうが一方的だったの。結構他にも居るんだよ私に一方的に貢いでくれる人達。でもどれもタイプじゃないんだよね・・・はぁ。
いやいや、でもねここはいい人ばっかだしさ、危険なことも無いって。だからさ、もう少しここに居てもいいでしょ?お願いだからさ〜。駄目?え〜どうしてなのよ、そんなに急いで帰らなきゃいけないの?え、何?そんな難しいこと言われてもわかんないってば。要するに、え、何?実家を継ぐの?私が?嫌よ!何で私があんなド田舎みたいなとこにある家を継がなきゃいけないわけ?だいたい、ママはママでしょ!私は自分の道を生きたいの。そんな親の勝手で決められたくないわね!
……悪かったわよ、泣かないでよ、確かにちょっと言い過ぎた。でもね…え、お見合い?そりゃ、確かにいい男は居ないけどさ…かっこいいの?その人。じゃあ一回だけなら帰ってみようかな〜でも、気に食わなかったらすぐにこっちにとんぼ返りだからね。いいわ、で迎えはいつごろ来るの?…」
なにやら妙なからくりに話かけている美しい女に優しそうな老人は心配して尋ねた
「どうしたんだね?声をあらげたり嬉しそうだったり」
美しい女は涙を浮かべ振り返りこう答えた。
「翁、婆、とても悲しきお知らせがございます。私は生まれた家へと帰らねばなりません。
あちらの世界とこちらの世界では時の流れが著しく違うて参ります。もはや生きてお二人と会うこともできますまい。いままでのご恩決して忘れは致しませぬ。せめて次の満月の夜、月より使者が参るまで出来るかぎりお二人のご恩に報いましょう…」
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