お盆の日は、家族全員で墓参りするのが僕の家のきまり事だった。……少なくとも、去年までは。今年は、母さんは近所のおばさんと、盆踊りの練習。姉さんはデート。結局、僕と父さんとでお墓参りに行くことになってしまった。父さんは「女の悪いクセだ」なんてことを、ぶつぶつ言っていた。
帰り道、車内で父さんが疲れ果てた口がふぁ〜とあくびをした。
「どうだ? 昼飯でも食いに行くか?」
「…そうだね。ラーメンでいいよ」
「ええ!? 父さん、寿司がいいよ。っな? 寿司にしようっ! よっし! 決まりだ」
父さんはいつもこんな調子で、1人で突っ走っていた。自己中でもなければ、オヤジギャグでもない。それは父さんの性格だった。っと突然、「おまえ、おばあちゃん覚えてるか?」と聞いてきた。
「全然…すぐ死んじゃったし……。おじいちゃんも、母さんの方も…」
「本当に覚えてないのか? おばあちゃんな、おまえのこと『よしよし〜』て言いながら、可愛がってた」
……全然、覚えがなかった。実際におばあちゃんが亡くなったのは、僕が3歳のときだ。
「死ぬ直前も、病院のベットで子守り唄歌いながら一緒に寝てた。それほど、可愛かったんだ」
「へぇ〜」
「きっとな、おまえが優しいのは、おばあちゃんのおかげだよ。感謝しろよ〜」
「感謝ねぇ」
それを言うと、父さんは運転に集中し、僕もうっすら目を閉じて眠りにつこうとした。
「父さんな。バイクが大好きで、大学生の時は乗りまわしてた」
「ッエ? 暴走族だったのぉ!?」
目を全開に開いて、父さんを見つめた。暴走族だったなんて、おどろきだ。
「違うよ。普通に、旅するぐらいだよ。それでな。事故ってばっかりで、おばあちゃんに迷惑かけてた。おまえが産まれても、バイクばっかりに夢中だった」
「ダメじゃん!」
「ま〜な。ははは〜!」
父さんはとぼけて、1人で笑った。僕もあきれて、笑った。
「でな。おばあちゃんや、おじいちゃんが早く死んだのは、父さんがバイクに夢中で、両親に迷惑かけたからだ……って、亡くなってからが気がついたんだ。すっごく、後悔した。それからバイクも売って、今では‘いい父親,なわけだぁ〜」
また1人で笑った。車が左右にユラユラ〜と揺れる。
少したってから、父さんが落ち着いて言いはじめた。
「だからな。おまえは、好きなことを精一杯がんばってくれ。万引きとかタバコとかは、ま〜ヒヤっとするけど、それも勉強だ! だから、両親を気にせずに、おもいっきり暴れて欲しい。今の若者はいつも、ふりあいを求めないで、人を簡単に殺して平然と生きている。そんな大人になって欲しくない」
……なに言ってんだよ。
一瞬、なにがなんだか解らなかった。
回転寿司の店につくと、父さんはご自慢のテクニックで車を駐車し、店内に入った。
その後姿はたくましくて、他の人より大きかった。
「父さん!」と叫ぶと、テレ臭そうに僕に振り向いた。
「早くこいよ。腹ペコだ」
父さんは、駆け足で店内に入った。
「まったく、すっかりオヤジなんだから…」
あきれて、つぶやくと僕は急いで父さんを追いかけた。
……もちろん、僕はそんな父を心から尊敬している。
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