ショートショートバトル 5KBのゴングショー第55戦勝者

「はくせん」

chitoku

アスファルトの道路脇の白線に沿って、ランドセルを背負った少年がうつむいて歩いていた。
白線からはみ出さないように、交互に飛び出す自分の足と、そのまっすぐな白線だけを見つめていた。
強い午後の日差しは少年の後頭部を直射し、その影は、交互に出る足と同じ位置にあった。
自分の足元と、動くアスファルトの白線だけが少年の世界になった。
ザシザシザシ、少年の口から動く音が出た、ザシザシザシ。

突然、世界を遮るマンホールの蓋が現れて、少年の足が止まった。
マンホールの蓋に乗ってはいけない。
少年はまっすぐマンホールを飛び越えて、途切れた白線の向こう側に着地した。
かかとが少しはみ出たが、足の半分以内なのでセーフ。
再び少年は、まっすぐな白線だけを見つめて歩き出した、ザシザシザシ。

すれ違う人々は、少年を避けて通り、ぶつかりそうな時は少年が止まって、足元の世界への侵入者が出て行くのを待った。
白線はさらに続き、大きな交差点に行き着いた。
交差点での白線は直角に曲がり、少し途切れて横断歩道につながっていた。
少年は頭を上げて、横断歩道を確認した。
渡ることはできても、その先で白線が途切れている!罠にはまってはいけない。
少年は、横断歩道を見送って、再びまっすぐな白線だけを見つめて歩き出した、ザシザシザシ。

白線は所々途切れたり、自転車が置かれていたりしたが、少年はワープで切り抜けた。
ワープは息を止めて三歩以内。
しばらく白線だけを見つめて歩いていたが、少年の世界に停車中の自動車が飛び込んだ。
少年は足を止めて顔を上げた。
自動車!別のコースはない、ワープも不可能、どうする!

白線と少年のやりとりは、妻と娘の発言で終了した。
「パパ。」「生ものが駄目になるわ、早くドアを開けて。」買い物袋を提げた妻と娘が、車の脇に立って少年を見ていた。少年は失望の哀しみで泣きそうになった。
車のドアを開けてやり、三人とも乗り込んでエンジンをかけると、妻が発言した。
「どこをウロウロしていたの。」
方向指示器点燈、後方良し、前方障害無し、回転数上昇、ゴオ!
「ねえ」
「やかましい!」
マンホールの蓋に乗ってはいけない。ザシザシザシ。


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