ショートショートバトル 5KBのゴングショー第54戦勝者

「夏色」

オカモトチアキ

夏が来た。桜はとっくに散り、町には薄着の女達があふれていた。
午後三時、今年小学五年生になる人志は家へと、自転車を走らせていた。
昨日、五つ上の兄が新しいゲームを買ってきた、兄がバイトに行っている昼間にやらなければいけないのに、今日は友達からバスケに誘われた。付き合いは大切だ。小学生でもそこらへんは分かっている。
人志は並木道を抜けると、下り坂にさしかかった。ペダルを漕がなくても、自転車は進むのだが、この年頃は下り坂でもペダルを漕ぐ。少なからず速くなるからだ。
下り坂の後にはカーブが待っていた。人志は重心をカーブの外側に向けると、次に一気に内側へ切れ込んだ。アウトインアウトだ。普通に曲がればいいのだが、この年頃は公道でもアウトインアウトを怠らない。少なからず速くなるからだ。
と、視界に黒い物が飛び込んできた。衝撃が人志を襲い、身体は前に吹っ飛んだ。
人志は何が自分を襲ったのか少しの間わからなかった。気を静め、冷静に周りを見渡すと眼前に自分の自転車が転がっていて、その横におっさんが倒れている。
「やっちまったぁ」人志はそんな事を声にならない声で呟いた。
「大丈夫ですか!?」
 おっさんはダメージを受けた様子は全く無く、スクッと立ち上がると「大丈夫だ」と云って歩き出した。本当に無傷だ。人志の自転車は車輪がイカレてるのに、あのおっさんは大した身体だ。
 人志は壊れた自転車を押しながら歩く事にした。おっさんは人志と同じ方向に向かって前を歩いている。歩き方も正常そのもので、本当にダメージは無いようだ。
 ここから家までは1キロ程だ。家に帰りつくのはどのくらいになるだろう。まあ、大した距離ではない。家に帰ってゲームをやる時間は充分にある。
 人志は安堵のため息を漏らした。
 が、それもつかの間。彼はとんでもない事に気づいた。
自分の影が見当たらない。
太陽は出ている。自転車の影もある。しかし、人志の影はあるべき場所にない。
 人志は周りを見まわした。しかし、どこにも彼の影は無い。なおも彼はあたりを見まわして必死で影を探した。
その結果、影は見つからなかったが、看板を見つけた。
そこには赤い字で「スリに注意!!」と書かれていた。


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