いつからだろう?
僕は父親を‘親父,と呼び始めた。確か、自分が独立して1人暮らしを始めた頃から
だと思う。
最初は照れくさかったのを覚えている。
親父は、少し変わっていた。大学受験に失敗して二浪になった時も、母親とケンカし
たときも、けして僕を叱らずに見守ってくれた。
……素直に言うと感謝している。
54歳……。父は老いた。髪は薄くなり、伸びているヒゲも弱々しい。
そんな親父を食事に誘ったのは、ほんの少し、親孝行のつもりだった。
親父と2人で、回転寿司のカウンター席に座った。
ティーパックを湯のみに入れて、お茶をいれてあげた。味は薄く、ひどいものだっ
た。
「さー、俺のおごりだから、好きなの食えよ。親父」
「そうか? 嬉しいな〜」
そう言いながら、最初に親父がとったネタはイカだった。120円の一番、安
い……。
苦笑いしてしまった。
親父らしい。野球のレギュラーをはずされて泣いている幼い僕をキャッチボールに
誘ってくれたり、遊園地に連れていってくれた、親父。
54歳。親父は変わっていない。
食べ終わった。
会計を済ませている僕に、ふと、積み上げられている寿司皿が目に入った。
俺、15皿。親父、9皿。
親父の後ろ姿が、なんとなく、りりしく見えた。
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