ショートショートバトル 5KBのゴングショー第50戦勝者

「美女と和牛」

新井たくる

 私は美女。
 そう、誰がなんと言おうと美女。
 バラのように美しく気高く……そして誰からも愛されるの。
 あ、今となりの男が私を避けてとおったけど……そうよね、バラには棘もあるから、近寄りがたいのかもしれないわね。
 私は小さいころから、自分が美女であることを自覚していたわ。
 両親は、私の顔を見るたびにため息をついていた。きっと、あまりに美しすぎるから感嘆のため息を漏らしていたのね。
 よく石を投げられるわ。美人もつらいわね。回りの一般人から見れば、嫉妬の対象ですもの。
 私に言い寄る男は今まで一人もいなかったわ。そうよね、私のあまりの美しさに、恐れおののいてしまうのよね。
 最近では、動物たちも私に近寄らなくなったわ。動物でさえ、私の美貌を理解できるのね。
 この前なんか、神父様から教会にくるなといわれたわ。なんてこと!私の美貌に、神でさえ嫉妬してしまったのね!!
 あ、今横を通ったのは近所のマリアね。まあ、彼女も私には及ばないけど、そこそこの美人かしらね。
 なんか、顔をしかめながら私の横を通り過ぎたけど、仕方ないわね。彼女も、私に及ばないことを知って劣等感を抱いてるのよ。
 あなたも私の姿を見たいと思わない?
 私に会う人がいつもそうなるように、きっとあなたも、私の超越した美貌に驚嘆して、泡を吹いて気を失ってしまうわよ。オホホホホ。
 ああ、私ってなんて罪な女なのかしら!

 そんな私は今、町の東にある森を歩いているの。
 ああ、そんな私も絵になるわ。
 うっとり……
 はっ、話がそれたちゃって、ごめんなさい。森を歩いている理由だったわね。
 昨日、聞いちゃたのよ。
 この森に、1匹の和牛が迷い込んでるって。
 和牛……
 舞台が中世ヨーロッパ風なのに、なんで和牛が出てくるんじゃーって言うツッコミはナシよ。
 それにしても……
 ああ、ぜひ私のものにしたいわ。
 あの、芳醇なお肉……
 網のように入ったサシのやわらかさ……
 じゅるじゅる。
 あらやだ、私としたことがヨダレなんかたらして……
 でもそんな姿も絵になってしまう私って、すーぱーぐれーとびゅーてほー。
 グフフ、今夜の食卓が楽しみだわ。
 焼肉、ステーキ、牛刺し、ビーフシチュー、ビーフカレー、牛丼、しゃぶしゃぶ、スペアリブ、タン塩、etc. etc ……
 ああ、夢の饗宴。

 それにしても一体どこにいるのかしら?
 もう、5時間くらい森をさまよっているのに。
 私みたいなか弱い乙女が神秘的な森の中を歩く。
 ああ、すばらしい。絵になるわ!!
 そして、どこからともなく白馬に乗った王子さまがやってくるの。
 そしてふたりは……
 いやん、はずかしい!!!
 背中の武器もガチャガチャ恥ずかしがってるわ。
 え?何の武器かって?
 乙女の必需品、大斧よ。
 木こりをしている近所のマッシュが注文したものなんだけど、重すぎて扱えないって、私にくれたの。
 大の男が情けないわねぇ。
 たとえどんなに重くとも、美人に不可能はないわ!
 片手で持ち上げたら、マッシュったら目を丸くしてたっけ……
 
 はっ!今、何か物音がしたわ!
 少し前を歩くあれは……間違いない!和牛よ!!
 逃がさないわよ。
 あの、つややかな黒い毛並み、精悍な顔立ち。そのすべてが、最高級であることを物語っているわ。
 のんきなものね。何も気づかずに草を食んでいるわ。
 そっと近づいて……
 斧を振りかぶって……
「うおりゃあああぁぁぁぁ!!!!!!」
 かわいらしい気合の言葉とともに斧を振り下ろしたら、あっけなく和牛の首が吹き飛んだわ……
 ああ、めくりめく美食の宴……
 ……でも……
 家族と分けて食べるなんてなんかもったいないなぁ。
 ちょっと、試食しちゃおうかしら……

 それからしばらく後……
 近隣の村々では、森に住む化け物の話題で持ちきりだった。
 人間のような姿ではあるが、あまりに醜く、しかも和牛の死体を生のまま貪り食っていたという。
 猟師が近づいたところ、化け物は獲物を取られまいと巨大な武器を持って襲い掛かってきたという。
 村に帰った猟師は、村人たちに森の危険性を説きまわった。
 好奇心旺盛な子供が森に入るのを恐れ、彼は「鬼女(きじょ)と和牛」という物語を創作して子供たちに化け物の恐ろしさを教えた。

 数百年という時の流れの中で、「鬼女と和牛」の物語は少しずつ変わっていった。
 内容はオカルトものから、ファンタジーラブストーリーへと。
 そしてタイトルも変わった。
 発音が似ているせいか、「鬼女」はなぜか「美女」に、「和牛」は「野獣」へと。

 未来の人間って言うのは気楽なもんだ。
 でもよかったな。
 自称美女のブスは、晴れて美女になったんだから。
 あれ?それにしても、この主人公の名前はなんていうんだ?
 脇役には名前があるのに主人公には名前がなかったなぁ。
 まあいいや。
 別に、知りたくもないし……

 めでたし めでたし(?)

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