ショートショートバトル 5KBのゴングショー第47戦勝者

「仮想恋愛ゲーム」

前ぴー

「あ、あの……浅野香織さんですか?」
 最近、私は街を歩いていると、このような言葉をかけられる事が多い。どうしてそうなのか、私はその理由をわかっている。
 でも、私はいつも不思議そうな顔をして、
「いえ、違います」
 するとその男は恥ずかしそうに私から遠ざかっていく。
 最初は戸惑って、変な言い争いになってしまったり、思わず逃げ出してしまったりしたが、今はもう慣れたものだ。最初はそう、誰かが街の中で自分をじっと見つめていて、声をかけようとしている事に気づく事さえ怖かった。
 別に私は芸能人でも何でもなく、普通の学校に通う大学生だ。ほんのちょっとだけ環境が変わる事になったのは数ヶ月前に広告を見た事だった。
『ゲーム出演者募集』
 私が愛読するファッション誌にそんな広告があった。少し気になった私がその広告の説明を読んでみると、VRGCという会社が仮想空間で恋愛をするゲームのキャラクターのモデルを募集しているという事だった。
 そのゲームはバーチャルスコープを使ってネットに接続して、架空の街で恋愛をするゲームだそうだけど、私はゲームに詳しくないで詳しいことはよくわからない。とにかく、そのゲームには実際の人間にそっくりなキャラクターが大量に存在するのだけど、VRGCは大量にキャラクターを制作する事が困難だったので、実在の人間をデータ化してゲームに登場させる事になったのだそうだ。
 ほとんど何もしなくても収入が得られるという事で、私はちょっとした好奇心からVRGCに行ってみる事にした。そこではちょっとした面接などがあり、面接を通過した私はスキャン用の機材でデータを取られ、それから数日後にゲームに採用されるという通知が来た。
 その通知によると、私は『浅野香織』というキャラクターとしてゲームに登場するという事だった。そのキャラクターはそれなりに人気があるそうで、私には毎月、だいたい2万円くらいのモデル料が入ってくる。
 最近は仮想空間もかなり実際の世界に近づいている事もあり、ゲームの登場人物である『香織』と私を混同してしまう人が、あのように私に声をかけてくるのだろう。
 そんな折、VRGCから手紙が来た。それによると私がモデルとなった『浅野香織』はなかなか人気があり、次に制作するゲームに出演して欲しい、と言う内容のものだった。詳しいゲームの内容やシステムの説明が付いていたけど、どうせ見てもわからないと思って見ていない。
 そのゲームが成人向けだという部分に抵抗はあったけど、キャラクターと私は無関係だし、得られる収入が数倍になると言う事なので、私はそれに承諾する事にした。
 新しいゲームの為に前より詳細なデータが必要になるというので、私は再びVRGCでスキャニングを受け、どのような展開までそのキャラクターが演じても大丈夫か、などの項目がある用紙を書かされた。
 それからしばらくして新しいゲームが始まったという通知を受けたが、私自身の環境には思ったほど大きな変化はなかった。恋人が出来たりゲームとは関係のない変化はあったが、街で『香織』と間違えて声をかけられる事も前と比べて少なくなったような気がする。
 ちなみに新しくできた恋人はスラリとして顔も良く、少し気分屋のところがあるが、私の理想のタイプだった。私がゲームのモデルになっている事は、なんとなく彼に悪いような気がして教えていない。
 新しいゲームでの収入が入った時、私は何かの手違いかと思った。その金額は数十万円だったからだ。VRGCに問い合わせてみたが、この金額で間違いはないと言う事だった。
 金額の多さに戸惑いはしたものの、人気があると高額になるというシステムだったので、私のキャラクターが人気があるのかも知れない。
 収入が増えたからと言って別に私は生活を変える事は無かった。この金額は今回だけかも知れないので、無駄遣いの癖が付いてしまうと後で困る事になると思ったからだ。
 デートの時、彼に会ってすぐになんとなく声がいつもと違うように感じた。風邪を引いているのか聞いてみたけど、別にそんな事は無いと言う。無理をしているわけでも無いようなので、私は彼と映画を観る事になった。
 映画の途中、私は気分が悪くなったので、良くなるまで休憩所で休む事にした。頭の中でチリチリと変な音がするような、奇妙な感覚だったが、それは数分でおさまった。
 休憩所から映画館の中に戻ったけど、先ほどまで私がいたあたりに行っても彼を見つける事が出来なかった。心配になって様子を見に来てすれ違いになったのかも知れない。そう思って休憩所に行っても彼の姿は無い。
 大勢の観客の中から彼を見つけるのは困難だし、映画館の中で動き回るのは他の人の迷惑になると思った私は、家に帰って後から彼に謝ろうと思った。
 家に帰って、とりあえずテレビを付けるとVRGCが摘発されたというニュースが報道されていた。
 どうして摘発されたのか知ったとき、私は背筋が寒くなった。
 VRGCは契約した人間を登場人物とした男性向けのゲームを現実世界に展開し、登場人物となる女性には相手が理想のタイプに見えるチップを頭に埋め込み、男性にはその恋人を演じる事でゲームに参加させるのだが、これは売春の斡旋に相当する言うことだった。

作者のページ:http://www.alpha-net.ne.jp/users2/maepy/

[前の殿堂作品][殿堂作品ランダムリンク][次の殿堂作品]


[HOME][小説の部屋][感想掲示板][リンクの小部屋][掲示板]