ショートショートバトル 5KBのゴングショー第46戦勝者

「八百長疑惑」

しの

トントントントン・・・。
台所から流れる包丁の気持ち良いリズム。そして鼻と脳を刺激し空腹のお腹を鳴らすカレーの匂い。
「もうちょっとでご飯よー。リリカ、お皿とってー」
「はぁーい」
リビングではこの家の主トシヒコが相撲中継を真剣な眼差しで観戦している。
テーブルの上にはリリカと愛する妻ユウコがせっせと運んだスプーン、コップ、サラダ、ラッキョウがきれいに並べられていた。
最後にカレーライスが食欲をそそらずにはいられない匂いと湯気を漂わせながら運ばれてきた。
「あなた、ご飯よ」
「おぅ・・・」
目をテレビに固定したままテーブルに移動する。
「もう、ご飯の時ぐらいテレビ消したら?」
「いや、この一番が大事なんだ」
そう言いながらスプーンでカレーをすくいにかかる。
「あ、パパ、いただきますのご挨拶してないよ。ルミ先生におこられるんだから。ちゃんとご挨拶しないとダメよ」
「あ、おう、ごめんごめん。そうだね、ご挨拶しなきゃね。じゃあ、せーの」
『いたーだきーます』
みんな同時にカレーを口に運ぶ。
「どう?おいしい?」
「あぁ、うん、おいしい」
目は完全に相撲中継にいっている。

「解説の白金さん、ここまで横綱の竜王山、10戦全勝と調子がいいですねぇー」
「えぇ、体から闘志が溢れ出てますよね」
「一方、今日の対戦者のオホーツク海、今日負けると十両に落ちてしまうという厳しい状況ですねぇー」
「えぇ、やはり前場所のケガがまだ完治していない、ということなんでしょうねー。今日も厳しい相撲になることは間違いないですね」

「もう、あなたったらー」
「もう、あななったらー」
リリカがませた口振りで、ユウコのマネを完璧にする。
「リリカ、ママのマネばかりしてるとママみたいにこわーい顔になっちゃうぞー」
「えー」
「あ、なによそれー」
「あ、さてさて、相撲相撲と・・・」
「あ、しゃてしゃて、おすもうおすもうっと・・・」
トシヒコがサラダを持ちながら体をテレビのほうに向ける。
リリカもニコニコしながらマネをする。
「ほら、あなた。リリカがマネするでしょー」
「いいじゃんねー」
「ねー」
2人して首を右に45度に傾かせる。

「オホーツク海は横綱にまわしを取られたらダメですよ」
「なるほど。さて、時間いっぱいです」

トシヒコ、サラダを口にくわえ首を45度に傾かせたままテレビに向く。
リリカもそれをマネする。
「そんなに相撲が面白いかしら。ほらリリカ、ちゃんとお行儀よく食べなさい」

「はっけよーい」
「あ、オホーツク海、出遅れた。横綱寄る」
「のこったのこった・・・」
「横綱寄る、横綱寄る。右まわしに手をかける。そのまま投げる・・・がオホーツク海粘る」
「のこったのこった・・・」
「しかし横綱、両まわしに手をまわし寄る、寄る」
「のこったのこった・・・」
「オホーツク海土俵際、横綱押す、押し出す・・・。オホーツク海、なんとか粘ろうと・・・、横綱のまわしに何か入れたぞ・・・」
「のこったのこった・・・」
「しかし横綱押し出し・・・、おーっと押し出さない。押し出さないでそのまま、あ、バランスを崩して・・・」
「のこったのこった・・・」
「オホーツク海、まわしに手をかけて、投げたー。オホーツク海上手投げ、決まった。オホーツク海の勝ち・・・」
「いやー、驚きました・・・」

「ん?八百長か・・・?」
トシヒコが口にサラダをほおばりながらぼそっと呟く。
「えっ?なぁに?」
ユウコが聞き返すがそれを無視し、テレビのリプレイを見つめる。

「さぁ、リプレイです。解説の白金さん・・・」
「いやぁ、最初は横綱の楽勝かとおもったんですけどねぇ。相撲は何があるかわかりませんねー」
「そうですねぇ。最初オホーツク海が横綱のまわしに何かを入れたように見えたのですが」
「その後ですよね。オホーツク海が横綱をおっつけてバランスが崩れたところを上手投げ。見事な逆転劇でしたね」
「そうですねぇー・・・」

テレビの画面にもリプレイが映される。
オホーツク海が横綱のまわしに手を入れた場面。
どう見ても手を入れられた後の横綱のまわしには札束が入っている。
「これ、八百長だろ?なっ」
体をテーブルに戻し顔をユウコに向ける。
「えっ?あっ」
「やおちょーやおちょー」
「おっ、お前もわかったか。八百長だよなぁ」
リリカの頭を強く撫でる。
「よくわかったわねぇ。そうよ、この野菜、スーパーの向かいの八百長のよ。どうしてわかったの?」
「やっぱ新鮮さが違うんだよ、なぁー」
「うんうん、ちんせんしゃがちがうー」
「はははは、だよなぁー」
「そんなにあれだったらまだあるわよ、サラダ」
「おう、くれ」
「おう、くれ」
2人一緒にサラダの器を差し出す。
「まぁ、リリカまで。あはは」
「それにしても、相撲・・・。やっぱ面白いよなぁー」
「よなぁー」
『ねぇー』
「リリカ、あんまりお父さんのマネばかりしてるとうつるわよ、お父さんが」
「えー」
「なんだよそれ」
『ははははははははははははははははははははははははははははははは』
日本の、ごく普通の幸せな家族だんらんの風景であった。

しののペ〜ジ:http://www.geocities.co.jp/Bookend/6515/

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