ショートショートバトル 5KBのゴングショー第271戦勝者

「エアコンが壊れた」

エラ是

エアコンが壊れた。
この季節に壊れるとは・・・。
室温が上がらない。
確か何年か前には温暖化の関係で節電ブーム。
その後、原発停止。
その次の年は暖冬。
で、その時々に稼働率を下げた為なのか、その後、調子が少しばかり悪くなってしまったのだが、まぁ、なんとかなるだろうと放っておいたのがいけなかった。
七月のこの時期、エアコン以外の暖房器具のない部屋で仕事を続けるのは困難を極める。
修理を頼もうにも、冬休みで受話器からは自動音声のつれない女の声が聞こえるだけだし・・・。
重ね着を何枚もして、震えながらなんとかコードを書いていくのだが、あまりにも寒いと思考が硬くなってしまうようで、どうもパフォーマンスに難のあるものしかできない。
このままじゃ、納期に間に合わない。
どうしよう・・・。
ノマドギルドのメンバーの誰かが捕まえられればいいのだけれども・・・。
メッセンジャーアプリを見ても、当たり前と言えば当たり前だけど、冬休みで誰一人としてログインしていない。
・・・しかし・・・なんでまた、こんなもの請けてしまったんだろう。
契約金に目がくらんでしまったのがまずいけなかった。
また、その頃、あまりにも遊びすぎていて、ツケが莫大な額に膨れ上がっていたのもいけなかった。
そのツケは契約金で充当してしまったので、もうないのだが、その後、怪我をしてしまって仕事ができなかった。
結果、ランニング・コストの方が新たなツケとして積上がってしまった。
クレジットの方は、いくつか延滞したせいで、現在、すべてのカードが停止中だ。
つまり、この仕事を片づけて、残金を回収しなければ明日はない。
そういうことだ。
そもそも、契約締結時は、この時期にコードを書くことになんかならないはずだったのだ。
先方とこちらのそれぞれの都合が絡み合った結果、今、処理すべき案件となったのだ。
しかし・・・これでは・・・手がかじかんでミスタイプまで発生してくるようでは・・・。
吐息で画面が曇る。
最新型のヘヴィデューティーなマシンじゃなかったら、画面だって表示不能だし、当然、記憶装置だって・・・つまり開発不能だったということだ。
だめだ、ここじゃ、無理だ。
最新型のマシンはシャットダウンし、ちょっと旧型のポータブルタイプのマシンを持って避難することにした。
しかし・・・現在の手持ちで入れる場所はと言えば・・・。
最近、この辺りでも見かけるようになったネカフェに入ってみたモノの、店内の騒然とした雰囲気に効率はそれほど上がらなかった。
自分が周囲を非常に気にするタイプであることを改めて認識した。
とりあえず、なんとか許せるパフォーマンスを得たときに、手持ちでの最長滞在時間まであと五分となってしまった。
借りていたブースを出て支払いを済ませ、部屋に戻った。
ドアを開けると眼鏡が曇った。
エアコンが直っていた。
とりあえずさっきビルドしたブツをメインマシンで送信して、再度、コード作成に取り組むことにした。
暖かく静かな場所だと、信じられないほど、冗談ではなく、本当に信じられないほどの速度で仕事が仕上がった。
テスト結果も満足行くもので、これならクライアントもすぐに残金を振り込んでくれるだろう。
そう思いながらブツを再送信した。



しかし・・・相手も冬休み中だったのだ。


ストックの中の食料が完全になくなった頃、入金のお知らせが口座から届いた。
さっそく確認してみると、予想額より若干少なかった。
本来ならばクレームを言うべきなんだけど、今はそんな気力は残されていなかった。
とりあえず、様々な債務を処理し、残金を確認し、買い出しのために外に出た。
珍しく太陽が輝いてはいたけれども、気温は前回の外出時よりもはるかに低かった。
しかし、出金してなにか食べるモノを買わないと、この先の展開も考えられない。
勇気を奮い起こし肌の切れるような寒さの中にボクは一歩踏み出した。


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