ショートショートバトル 5KBのゴングショー第262戦勝者

「訃報」

オフィスワーカーZ

職場で訃報が回ってきた。
他の事業部の偉い人で、一回ぐらい実物を見かけたことがある。
へぇ、あの人死んじゃったんだ。
わたしはそう思いながらハンコを押して次の人に回覧した。
それから一月後、わたしは配転になった。
そこには死んだはずのあの人がいた。
どうなってんの?
新しい職場の同僚に聞く訳にはいかないので違和感を覚えながらも黙って仕事を続けた。
その数日後、久々に会った学生時代の友人にその話をしたら
「え、別に変じゃないでしょ」
「え、どうして」
「いや、いろいろ事情があって再生されてきただけでしょ」
「再生って・・・」
「キリストとかであるでしょ? ・・・もしかして、そういうの知らないかな」
キリストは知ってるけど、うちの会社のちょっと偉い人程度で復活なんかするかよ。
「それにしても・・・おかしいね」
今度は相手がおかしいと言った。
「なにがよ」
「いや、再生されたことに違和感を持つってことがさ」
「なによ、わたしが変だって言うの」
友人はカップの中のコーヒーをずずっとすすった。
「いや・・・まぁ・・・変、でもないか、な」
奥歯にモノの挟まったような言い方だった。
「どういうことよ」
「あ、ごめん、ちょっとこの後用事があるんだ」
友人は腕時計を見て「じゃあ、これ俺の分」と言って紙幣を一枚おいて立ち上がった。
わたしは釈然としないモノを感じながらもそれをぶつける相手がいないので、残った紅茶を飲み干すと席を立った。
アパートに帰ると部屋に明かりがついていた。
あれ、消し忘れたかな?
そう思ってドアを開けて中にはいると、さっきの友人がいて
「あ、お帰り」
と言った。
「なんで、ここにいるのよ。それも勝手に入ったりして」
「あれ? 今日から夫婦ってことになるって連絡来ていない?」
なにを言っているのだろう?
わたしは身の危険を感じてドアの外に出ようとした。でもドアは開かなかった。
後ろからなにかイヤな気配がヒタヒタと忍び寄ってきていたが、なぜか体が動かなかった。
「あ、たぶん今言ってもすぐに忘れちゃうと思うけど、俺、今、この世界のシナリオライターなんだ」
そんな馬鹿げた言葉にも、手足がしびれ始めたためかなにも言い返す気になれなかった。

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