ショートショートバトル 5KBのゴングショー第233戦勝者

「男はそう呟き、缶ビールをぐっと飲んだ。」

「暑い」

「暑い」
 男はそう呟き、缶ビールをぐっと飲んだ。
 彼はいわゆる単身者向きのマンションのベランダに、涼をとろうとビール片手に出てみたのだ。しかし、風はまったくなかった。いつもなら間近に迫る高層マンションとさらに別の高層マンションとの間を、冗談じゃないかと思えるほどのすきま風が吹き抜けていくのだが。
 計画停電はなくなったが、この地域の供給電圧が下げられてしまった関係で、彼の手持ちの古い電化製品には、ほとんど稼働できるものがなくなってしまっていた。照明器具とポータブルラジオだけが現状では使用可能だ。
 缶ビールを飲み干して、コンビニに追加を買いに涼みにいくのが、最適解だとは思うのだが、仕事と、それ以上に通勤地獄で疲れており、今更、三キロ離れたコンビニまで行こうという気は起きなかった。
 携帯電話でメールを打つ。
 返事はすぐに着た。
 相手は「今、  で飲んでいるからこれたら来いよ」というような気楽なことを送ってよこしてきた。
 そこで彼は「そうしたいのはヤマヤマだが、ちょっと理由があっていけない」と返す。相手が本日、本当に飲んでいるのか、それとも自分と同じく適当な作り話を送ってきているのか、それは不明だ。でも、どのみちその場所に出向くことができないのなら、その二つに違いはない。
 それからも、ベランダへの窓を全開にしたまま、部屋の床に寝転びつつ、たまにメールを相手に送ってみる。すぐに返ってくるわけではないので、もしかすると本当に飲んでいるのかもしれない。「写真を送ってくれ」と書けば済むことなのに、あえてそうすることはしなかった。
 相手が「いいのかよ、大事な用事の最中じゃないのか」と言ってきたときは、とりあえず携帯電話を部屋に置いたまま、とりあえずコンビニまでビールを買いに出かけた。
 戻ってくると、ぐったりしてしまい、ぬるくなりかけたビールを半分ほど飲んだところで寝入ってしまった。
 気づくと、明るくなっていた。部屋の電気はつきっぱなしで、テレビは低電圧の呪縛を突破したようで、着いていた。
 しかし、時間が時間だけに通販番組だった。見ていると、電圧低下時でも落ちることなく見れるテレビが思いの外安く売られていた。
 思わず携帯でその番号に電話をかけそうになったが、今度のカードの引落の明細が視界に済みに入って、手が止まった。

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