ショートショートバトル 5KBのゴングショー第229戦勝者

「NISEMONO」

EP45

「あなたはいつから世界が偽物と気づいたのですか?」
酒場で飲んでいると、たまに面白い質問をうける。
「そうですね・・・」
勿体ぶった調子でグラスを持ち上げ、それを天井のライトに透かし、
「あれは・・・」
と始めればよい。
つまらない余興ではあるが、変な話をするやつがいるという評判がたって、
お客が増え、その結果、長い間貯め込んでいたツケがチャラになる場合もな
いこともない。
しかし、その晩の相手は少し違っていた。
「・・・というわけです」
「なるほど」
とても長い話なので、相手が奢ってくれたグラスの数も片手に達しようとして
いた。
「もう一杯、いかがですか?」
すべての持ちネタを使い切ってしまい、これ以上は難しい。
しかし、まだ飲み足りない気分だった。
「じゃあ、もう一杯だけ」
相手は微笑むとバーテンダー氏におかわりを注文した。
「偽物について、なのですが・・・」
「はい」
「偽物の世界があるということは、本物の世界もあるということですよね」
「そうですね」
「あなたのお考えになる本物の世界とは、どんな世界でしょうか?」
「本物と偽物の違いは、なんだと思いますか?」
ちょっと話疲れたので、切り返しを入れて休憩する。
すると淀みなく、彼の思うところの「本物」の話を始めた。
「本物」についてならば、あなたよりも多くを知っているのです、と言わんば
かりに話されるストーリーは、長かった。
「本物」についてのネタを捻ろうと思っていたのに、ここまで詳細に「本物」
について述べられてしまうと、こっちのターンがこなせないように思えた。
それにしても、相手は私と同じだけ飲んだのにもかかわらず、酔いというもの
の影を見てとることができない。まさか水でも飲んでいたのだろうか?
いや、私と同じく琥珀色の液体を飲んでいた。
現にグラスに残る液体は琥珀色だ。
「・・・ということだと、わたしは考えます」
「なるほど」
さて、こちらの語る番になってしまったが、このまま見込み発進しようものなら
途中で脱線して逃げ出すことになりそうだが、その場合、相手から逃げることは
難しいだろう。
「一杯、奢らせてもらえますか?」
私はそう提案してみた。
「では、一杯だけ」
バーテンダー氏が彼に出したのは透明な液体の入ったグラス。
「いただきます」
そう言って一口飲んだ彼はカウンターに突っ伏した。
まさか、「本物」の世界からこっちの世界に来る奴がいるなんて・・・。
バーテンダー氏と目配せをして、わたしは席を立った。

THE END

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