ショートショートバトル 5KBのゴングショー第228戦勝者
納会2010
記憶を辿る作業は、徒労に似ている。 だから、わたしは昨日のことも思い出さない。 「・・・なんで、指示通りにしない?」 「はい?」 この後のやりとりは、毎度同じなので、割愛する。 こうして、何度も同じことの繰り返しでしかないので、思い出すのさえ、無意味なのだ。 だから、思い出すことのないように、覚えないこととした。 そのせいで、記憶のバッファがファミコンのメガロム程度になってしまった。 おいおい、それはないだろ? そういう声が聞こえる。 記憶することをやめると、脳が暇なので、別のことをし出すようだ。 困ったものだ。 回りの会話がすべて整列整理され、内容が理解できるようになる。 まぁ、理解してもすべて忘れてしまうのだが。 で、そういうことを何度も何度も繰り返した結果。 世界が変化した。 どうも、世の中は、自分のことは皆わからないが、他人のことはすべてわかってしまう。そういう社会になってしまったようだ。 僕が気づいたのは、最近のことなので、どれくらい前からこのようなものなのだか、知らないが、そういう結論にならざるを得ない。 会話が成り立たない。 言おうとする内容が、先に知られているのなら、話す必要などない。 しかし、建前上は、皆、そうでない振りをし続けなければならない。 それもルールらしい。 余分なことは言うな。 そう声を出して言う人もたまにいる。 しかし、そういう人は、いつの間にかどこかへ消え去り、見かけなくなる。 それもルールなのかもしれない。 ルールブックを作ったのは誰なんだ? それは、まだわからない。 完了 |
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