ショートショートバトル 5KBのゴングショー第223戦勝者

「HABATAKI」

RR+19081

攻撃が開始された。
予想していたことなのだが、それでも堪える。
もう耳が聞こえなくなった。
目が見えなくなるのも時間の問題だろう。
五感からの情報が断たれる代わりに過去の記憶が甦ってくる。
参照王というのが現れて、
「久しぶりだな」
とうれしそうに声をかけてくる。
「よろしくたのむよ」
わたしがそう頼むと
「まかせておけ」というような表情を浮かべ、手のひらを上に向け羽ばたくポーズをする。
滑稽な動きだが、もやもやとしていた周囲の景色がはっきりしてくる。
参照王が景色に溶けて消えると、わたしはいつかのどこかに立っていた。
「よぉ、ひさしぶり」
声のほうを見ると、悪友が両手を広げて近づいてくるところだった。
えっと、ここではどうすればよかったんだっけ?
「どうした? 俺の顔に何かついているか?」
広げていた手を下げ立ち止まると、彼の顔に緊張の色が差した。
しまった、ミスったようだ。
わたしはポケットに手を突っ込んだが、期待するものは見つからなかった。
「まさか、忘れるわけないだろう」
そう言ってこちらから歩み寄りハグする。
お互いの親密さを演出する行為が済むと、
「で、お前誰だっけ?」
と奴は耳元でささやき、離れざまにボディブローを放ってきた。
胃液が逆流する。
でも、わたしは殴られたことなどなんでもないかのように、
「   だよ。忘れたのかよ」と言う。
すると奴は顔を歪め、それを両手で包み込むようにし、
「思い出せないんだ、何もかも・・・」
と叫びながら膝を折った。
「大丈夫だ。すぐに思い出せる」
わたしは彼の背中をポンポンと軽く叩き、安心させようとする。
そうだった、このままこいつをクリニックに連れていくのだった。
とっかかりを掴んだわたしは彼を立たせ、目的地に誘導し始める。
「クリニック」まで運べば後はそこの担当者が処理してくれる。
そうすれば元の世界に戻るのも時間の問題だ。
彼は力なくわたしに引かれるようにノロノロと歩いている。
思ったよりも時間がかかったが、クリニックに辿り着いた。
「ここで治療をすれば、なにもかも上手くいくよ」
彼はここまで歩く間にかなり消耗したようで、力なくうなずくだけだった。
まるで何十年も歳をとってしまったかのようだ。
担当者に「よろしく頼みます」と彼を引き渡すと、わたしはクリニックの外に出ようとした。
「待ってくれ!!」
残りの力をすべて注ぎ込んだような彼の叫び声にわたしは立ち止まり振り向く。
「本当によくなるのか?」
「ああ、すべて思い出すよ」
そう言うと安心したように頷き、彼は担当者に連れられてクリニックの処置室へと入っていった。
わたしは彼の処置が済むまで建物の外で待った。
参照王に似ているが、そうではないものが現れ、手のひらを下に向けて羽ばたきの動作を行い始めた。
処置がもうすぐ済むのだろう。
景色がとろけ始めた。

おわり

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