ショートショートバトル 5KBのゴングショー第217戦勝者

「そうなんです」

わんぎゃる

曇り空の向こうから、太陽が姿を現す。
そういうことを皆期待している。
たぶんそうなんだろう。
僕らは、雪山ではないが、登山の途中で、遭難した。
遭難。大げさな言い方だけど、そうなんだ。
登りはじめは、いい天気だった。
お天気お姉さんは、雨が降るとは、一言も言っていなかったし。
で、急に太陽が厚い雲におおわれ、風が冷たくなり、気温は一気に五度ぐらい下がった。いや、気温を計る器具が故障していて、本当のところはわからない。
感覚的に、そうだと思うだけの話だ。
だから、遭難というのは大げさだ。
でも、僕らは思い込みで「遭難」と判断を下していた。
「遭難」なんども心の中で呟くと、乗り物酔いや、人前に立ったときと同じように、それが意味のないものになるのではないか。そんな風に思い込みたかった。
思い込みが世界を変える。
そんな見出しの書籍がベストセラーになっていた。
バストセラーだったら、男は皆、色めき立つが、ベストセラーなんて、それも他人の書いたものなんて・・・。
「しかし、それにしても寒いな」
女子は誰も口を開かない。
なぜか、潮干狩りの貝のことを連想した。
すると、
「本当に寒い」
一人の女の子が呟いた。
僕らは、あまりにも冷えてきたので、風よけになりそうなものを探して、やっとみつけた、解体された山小屋の廃材の山の陰に座っていた。
廃材はしけっていて、火はつかない。
だから、暖をとることはできない。
雨は降ってこないが、寒風といってもいいほどの風が吹き荒ぶ。
雲はどんどん流れていくのだが、また新しい雲が、そこに補充され、一向に陽光を拝めそうにない。
僕らはこんなところに留まらず、どんどん歩き進めればよかったのだ。
でも、そんなことは、今となっては致命的なほど手遅れな話で、銀のスプーンをくわえて生まれてきたとしても、匙を投げられ、ほぼ臨終。
誰の顔にも疲労の色が濃く滲んでいる。
広尾の友人が、前に言っていた。
「山をなめちゃいけない」
僕らが安易な気持ちで登ったことは否めない。
そんなこんなで、僕らは山の神に罰を受けているのかもしれない。
登ってくる途中、ゴミを捨てたりした。
酒を飲んで、げろを吐いた。
道の途中に咲く、草花を適当に抜いて、遊んだ。
その頃は、暖かな日差しのもと、ピクニックでしかなかった。
それが、こんな風に様相が変化したのは、きっと、僕らの行いが、山の神の怒りに触れたからだ。
でも、それは僕の想像であって、他のメンバーはどう思っているか不明だ。
誰も、寒さと強い風に目も口もほとんど閉じており、会話はない。
ケータイのワンセグはサービスエリア外のようで、映らない。圏外でもある。
ケータイで時間を確認すると、もう日没まで間がない。
「いまなら、まだ間に合う」
僕が言おうとしていたことを、Nが口にした。
そして、彼は立ち上がると、
「さぁ、こっちだ」
そう言って皆を立たせ、歩き出した。

それから、一時間ほど経っただろうか。
僕らはまだ山中にいる。
本当に冗談抜きで「遭難」したわけだ。
先導した男は、どうなったかって?
別にどうもしない。
同じように遭難者の一人。
それだけのはなしだ。
今夜をやり過ごすことができれば、あるいは・・・。


えんど

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