ショートショートバトル 5KBのゴングショー第215戦勝者

「タテフダ」

NDP


「この道を歩いていくと、天国です」

そんな立て札が立っている。
嘘に決まっている。天国って何だ? レンゴク? いや、天国だ。
天国ってなに?
人々が立て札を前にして、口々に言っている。しかし、見慣れない「天国」という単語に興味をもっただけで、その札の先に向かって歩き出す人はいない。

実はその道、最近の大雨で山津波が起こった結果、できた道というか、なんというか、山の裂け目の村側に一番近い位置にあるのだ。

「誰か行ってみる者はいないのか?」
どこかから声がする。
それを聞いて、よし行くぞ、という人はもちろんいない。
崖がまた崩れるかもしれないし、だいたい誰もその先になど行ったものなどいないのだ。
だいたい、皆、村人の声ではないその声を空耳と思い込んでしまい、他の人に、
「今の声誰?」
と尋ねるものさえいないのだ。
結局、村人全員が立て札を見てしまうと、そこには誰もいなくなった。

その夜、また大雨が降った。
立て札の奥の道から、大量の土砂が流れてきて村を襲い、その村は壊滅した。
村がなくなり、立て札だけが残った。

それから1年後。

「ああ、やっと開けた地にたどり着いたようですね」
ある集団が立て札の奥の道から現れ、その中のリーダーと思しき人物がそういった。
後についてきた人々は、口々に「ああ、助かった」「ここが天国なんだ」「よかった、本当に良かった」などと言って喜びを分かち合った。
そして「さぁ、新天地へ」というリーダーの掛け声とともに皆走り出した。

その中の一人が立て札に気づいて立ち止まった。
彼はその内容を見ると、複雑な表情を浮かべたが、引き抜いてどこかに捨てると皆の後を追っていってしまった。

おわり

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