ショートショートバトル 5KBのゴングショー第213戦勝者
きんぐしょーんず
「18金のリングをください」 見るからに金のなさそうな小娘が店に入ってくるなり、そう言った。 「プレゼントでしょうか?」 「いえ・・・その・・・」 店員は微笑みの中に「困惑」と「苛立ち」と「蔑み」と隠し、 「ご予算は?」 「あの・・・これ・・・」 少女が差し出したのは、ブラックカード。 写真入のものだ。 店員の微笑みは「売上目標達成」と「驚愕」と「猜疑」が若干混じったものに一瞬だけ変わったが、 「こちらにございます」 と少女の希望する品のある陳列棚に促した。 少女の視線は、棚の中にある様々なリングの上をいったりきたりした。 「よろしければ、ケースから出しますが・・・」 店員の言葉にも反応することなく、ザラツク視線をリングに浴びせ続ける少女。 店員も「ノルマ達成」がなければ、付き合え切れないような雰囲気の中、根気よく待ち続ける。 十分ほど経ってから、 「じゃあ、これと、これと、これを出してもらえますか?」 と店員を見ずに、少女は言った。 少女が指し示したのは、一番右のシンプルなリングと、真ん中の凝ったつくりのものと、一番左の、最右端のものとは違った意味でのシンプルなもの。 店員は殊更、恭しく三つのリングをショーケースの上に並べると、 「どうぞ、ご自由に・・・」 といつもの台詞を言い終わる前に、それは起こった。 三つのリングの入った箱ごと少女はなぎ払い、ケースの上から全て落とすと、カードを店員に示し、 「支払いをお願いします」 と告げた。 店員は床の上の商品が気になりながらも、有無を言わせぬ調子とブラックカードの威力に、 「はい、かしこまりました」 と応えていた。 ほかの店員が気を利かせて、床の上の箱を拾おうとすると、 「触らないで!」 とピシャリと制し、 「チェックはまだ?」 と処理をせかす。 カードを手にした店員があわてて決済処理を済まし、 「では、こちらにサインを」 と少女に言うと、彼女はペンをジャケットの中から取り出し、手馴れた感じでそれを済ませた。 ペンはモンブランの最高級品のように見えたが、定かではない。 「ありがとう」 そう言うと、少女は床のリングには目もくれずに去っていった。 「なんだったんでしょうか?」 「わからないわ、わたしに聞かないでよ」 「で、これはどのように処理しますか?」 床の上に放置されたままの商品を指して、ある店員が言う。 「傷がないか確認して、もう一度・・・」 そう言いかけた店長が、 「いえ、やっぱり、破棄して」 と言うと、ぎょっとするものもいたが、 「どこかの老舗料亭みたいになりたくないもの」 と彼女はつけたした。 了 |
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