ショートショートバトル 5KBのゴングショー第211戦勝者

「カミノヤマ」

NANDAIMON PROJECT

 去年のことだ。
 会社の帰り道、道端に捨てられているラジカセをみかけた。
 ラジカセ。ラジオとカセットテープレコーダー(プレイヤーの場合もあるみたいだ)が一体化しAV

機器だ。
 こういうものは、最近は有料で回収してもらうことになっている。道端に捨ててあるのは、単に公共

心がないというだけでなく、ごみを捨てる際に払うお金がないのかもしれない。
 不景気、不景気と「口を開ければ」不景気というTVの中の人たち。
 その割に深夜まで放送は行われている。昔、どこかで読んだのだが、外国では放送休止時間があるそ

うだ。
 そう言えば、都市伝説なのだが、大塩平八郎の亡霊が現れて、札をばらまいて歩いているらしい。
 大塩平八郎といえば、造幣局のあたりに石碑が立っているのをみかけたことがある。
 たしか、江戸幕府の悪政に乱を起こしたはずだ。
 この国の政治は迷走している。
 だから再び彼が甦って、輪転機をフル稼働させているのかもしれない。

「都市伝説なんてもの、信じてるのかよ」
 友人とドライブに行った際に、話題に困ってその話をしたら、彼は怒ったようにそう言った。
 彼は金融関係の仕事をしていたはずだ。まずかったかな、と思い、
「いや、そんなことはないよ。単なる噂話さ」
 彼は無言でアクセルを深く踏み込んだようだ。
 エンジン音が一瞬大きくなって、車が加速した。
 どんどん、前の車を追い抜いていく。
 そんなに不適切な話題だっただろうか?
 みるみるうちに、ほとんどすべての車を追い越してしまい、どうみても速度違反の領域に突入してい

た。
「ちょっと、スピードを落としたほうが・・・」
 彼の方を見ると、目が虚ろだった。
「ちょっと!!」
 料金所がもうすぐ目の前だ。それでも速度は変わらない。
 目の前が真っ暗になった。
 比喩ではなく、事実として。
 クッションのようなものにぶつかったような感じで車は止まった。
 エアーバッグが開いて、その中に埋もれあたふたとしたが、しばらくして、外部から助け出され、車

の外に出た。
 見るとなにか紙の山に車は突っ込んで止まっていた。
 周囲の人が沢山で群がっていて、よく分からなかったが、どうもお札の山のようだ。
 なんで、こんなところに・・・。
 まさか・・・。
 友人はどうしただろうか、と探してみたが見当たらない。
 パトカーと救急車がやってきて、わたしは救急車にのせられ病院に運ばれた。
 事情聴取を受けたとき、警察の人に友人はどうなったかきいてみると、言葉を濁して去っていってし

まった。
 それ以来、その友人には会っていない。
景気はあの事故を境に急回復して、今は誰も「不景気、不景気」と不景気なことをいう人もいなくな

った。
 友人はどこに消えたのだろうか。
 今もたまに新しい札を見る度に思う。
 大塩平八郎の肖像画の最高額の紙幣を見ると。

おわり

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