ショートショートバトル 5KBのゴングショー第206戦勝者

「淋しい熱帯G・Y・O」

ふぁにーぞーぐ

世界大戦開催中!!
そういうシンモンの見出しを読む。
くだらない。
そう思うのだが、それはそれで、当事者には重大事なのだろう。
死者の数がいくつだとか、戦績はこれでどうだとか。
まぁ、興味がないものにはまったくもってどうでもいいはなしばかり。
読むまでもないので、新聞の広告欄の見出しで済ます。

窓の外はとても寒いことを、この子たちは知らない。

そういう警句ようなものが、隣の広告の見出しにあった。

そこには、戦場に向かう若い兵士が整列している。

その写し絵の中の兵士は、皆、やる気満々にみえる。
でも、広告の中のものなので、本当かどうかなんてわからない。

というわけで、わたしは「窓の中」の様子を確認する。

窓の中では、激しく疑似熱帯魚が食い合いをしていた。
共食いだ。
実に嘆かわしい。
しかし、設定ミスでもあるので、少しだけ反省し、状態をクリアする。
疑似水槽の中は、一瞬にして空白になり、その後、ピンクノイズが見え、
元の「水槽」に戻る。
「窓」の中の疑似熱帯魚の飼い方のマニュアルを探すが、この前、
女房が廃棄してしまったことを思い出す。
「畜生!!」
と胸の内で叫ぶ。
誰にも聞こえないが、大声で。
「窓」の中の「水槽」は元に戻ったように見えたが、肝心の熱帯魚がいない。
「畜生」
今度は、声に出して言う。
すると、女房が戻ってきて、
「なにか言った?」
と怒り声を出す。
「いや、別に」
なぜ、彼女は今日も怒っているのか不明だ。
わたしは中身が空の「水槽」を眺めながら、なにか彼女の怒るようなことをしたか、記憶をたどって

みる。しかし記憶は曖昧模糊としてなにかあるようなのにそこにはなみひとつたっていない。水槽の

中は何もない。明らかに。でも自分の頭の中にはなにかあるはずなのになにもみつけられない。

その違いの無さに愕然となる。
「どうかした?」
先ほどと違って心配そうな彼女の声が聞こえ、そちらを見る。
彼女はファストフードの包み紙の中の何かにかぶりついた。
咀嚼する音が聞こえたような気がする。
しかし、聞こえるわけがない。
わたしは耳が聞こえなくなって久しい。
彼女の声が聞こえるのは、彼女とわたしの「脳」が共有サービスを利用しているからであり、つまり

、彼女が食べれば、わたしも味わうという、そういう仕組みだ。
で、わたしが聞こえないので、彼女も自分の噛む音など聞くことはできない。

でも、内部は別なので、相手の考えは読めない。
お互いに。

「水槽が」
「水槽がどうかした?」
「うん。水槽が・・・」
「だから水槽がどうしたの?」
「水槽じゃなくて・・・」
彼女は残りの食べ物を全部食べてしまった。
ああ、この味はハンババといったものだったように思う。
「水槽がどうかしたの?」
彼女の顔の表面に怒りの色が浮かんだ。
彼女はわたしのほうに近づいてくると、「窓」の中をのぞいた。
「ああ、なんにもいなくなったんだ」
「うん」
「リセットしたらいいじゃない」
「した」
「それで、そうなの?」
「うん」
「壊れたんじゃないの?」
「かも」
「じゃあ、もうダメね」
そう言って、彼女は「窓」の動力を切った。
何も映らなくなった「窓」を見ていると、今に彼女に自分もそう言われるのではないか、そんな恐怖

のような、いや、不安を感じたが、なぜだか急に眠くなってきてしまい、気がつくと翌日だった。

今日も「窓」の動力を入れる。

おわり

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