ショートショートバトル 5KBのゴングショー第205戦勝者
千代子
チョコレートは、恋の味。 どこかで誰かが、そう言っていたような気がする。 友人のユウジにチョコを渡そうかどうしようか、考えつつ、コンビにの棚を眺めていると、 「何してんの?」 とクラスで隣のキセノが話しかけてきた。 「なんで、お前が・・・」 「コンビにくらい来るよ」 そうだ、中学生ともなれば、コンビニくらい普通だ。 いや、そういう話じゃない。 「どうかした?」 「別に・・・」 「あー、もしかして、こういうチョコ欲しいの?」 「んな、わけないだろ」 俺はそのまま店の外へ出た。 振り返ると、キセノがいるかと思ったが、それはなかった。 店の外は2月だというのに、なんだか馬鹿に生暖かくて、嫌な感じだった。 結局、ケチがついたので、チョコは買わずじまい。 今年も、例年通り、なにごともなくバレンタイデーは過ぎた。 今年は2/14は日曜日だったので、考えてみれば、呼び出す、あるいは待ち伏せしないことには渡せないから、それはそれでよかったのかなと思う。 それから三日後の放課後。 いろいろあって、いつもより遅い下校の途中で、キセノを見かけた。 やつは、なんとチョコレートアイスを食べながら歩いていた。 その日はバレンタインの前日のようじゃなく、正真正銘の真冬日だったので思わず、 「寒くない?」 と声をかけてしまった。 「え? 別に」 となんともとぼけた返答だ。 そういう奴の頬は、寒さで真っ赤になっていて、見ているほうが心配になる。 「どうしかした?」 「いや、すっごく寒そうに見えるんだけど」 「そんなことはない。なぜなら・・・」 と奴の長講釈が始まった。 チョコレートは食べるとドキドキする。それは鼓動が早くなるからで、つまり、血液の循環が良くなる。すると酸素が体内に良く供給され、脂肪が燃えやすい。 また、寒いときに体を冷やすと、自律神経が体温を上げようとする。よって、脂肪が燃えやすい云々。 長い話を要約すると、そんな感じだ。 「ダイエットの一環か」 「そだね」 奴はそう言ってニヤっと笑った。 冬の日は短い、相対的に。 本当は以前よりも長くなってきているんだったと思うけど、今日は夜、雨という予報のためか、もうかなり暗い。 防犯灯もすでに自動点灯していた。 夜道を女一人で帰すのもなんだったので、 「送っていく」 と言うと、 「もうすぐだから、そんな必要はないけど・・・」 と進行方向を見たまま奴は言った。 「ありがとう、とかなんとか、言えないのか?」 そう言うと、 「ありがとうございまする」 とおどけて見せた。 なんだか、それ以上会話するのが馬鹿らしくなったので、黙って奴の家まで送っていった。 翌々日、学校にいくと、キセノが転校したという話だった。 「話だった」と伝聞調なのは、前日、昼休みにサッカーをしていて、すっころんで足首を捻挫してしまい、早引けしたからだ。 それから、数年後。 キセノだという女性に街で声をかけられたが、どうにもこうにも信じられなくて・・・。 あ、友人のユウジが、なんと今、その子が付き合っているということのほうが、もっと信じがたいことなんだけどね。 |
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