ショートショートバトル 5KBのゴングショー第205戦勝者
北斗のまいたけ
皆が集まり、宴は始まった。 鯖のペーストののったカナッペを右手に、左手にグラス。 「どうも、はじめまして」 「どうも」 軽い挨拶から始まり、どんな仕事をしているのか、今興味のあること、そんなたわいのない話をしつつ、ドリンク&ドリンク。 酔いも程よく回ってくるころには、BGMもホットなものならスイートなものに変わっていき、 気づくと、どこかに消えていった人たちもちらほらと。 ボクは、鯖のペーストって、どうやって作るのかなと思い、先ほどから料理人だという髭の素敵なナイスミドルから、その作り方を聞き出そうとしている。 しかしながら、彼はなかなか教えてくれない。 「まぁ、鯖をさばいて、それで小骨を取って・・・」 非常に具体的なんだけど、料理をしないボクには、難しい単語ばかりだ。 「お飲み物はよろしかったですか?」 ブラックスーツにサングラスと言う、いかつい感じのウエイター氏が、そう声をかけてくる。 「あ、おかわりを」 と言ってボクはトレイの上のグラスと自分のそれを交換する。 ナイスミドル氏は、「私は、まだありますので」と断った。 「・・・とどのつまり、鯖をよく練って、そこに味付けをすればいいんですね」 ナイスミドル氏は、口ひげを少しなでてから、 「・・・まぁ、そういうことになりますね」 と言って、グラスの酒を飲み干し、 「ちょっと、失礼」 そう言ってボクの前から去った。 気がつくと、もう誰もいない。 もしかして、ボクは彼と一緒にここを出て行くべきだったのかもしれない。 携帯電話が振動した。 着信? 電源を切っていたはずなのに・・・。 ボクは取り出して、ディスプレイを見た。 友人81からだった。 出ようか出まいか迷ったけど、ボクは、パーティールームから出て、パウダールームで電話に出た。 「よぉ、元気ぃ?」 「テンション、ちょっと低め」 「へぇ、今日はPTだったはずじゃないのか」 「そうだけど、いま、少し・・・」 「あぶれていたりするのか?」 「・・・いや、そんなことはないけど、どういう用件?」 「ん、ああ、ちょっと暇だから・・・」 「こっちは忙しいんだけど・・・」 水の流れる音のあと、ドアが開き、誰かが出て行った気配が・・・。でも、ここはパウダールームだ。 「・・・そのPTは、その、招待状とか必要なのかな?」 「いることになってるけど、もうこの時間なら、フリーパスじゃないかな」 「そっち、行こうか?」 なんだか、変な雰囲気になりそうだったので、 「勝手にすれば」 と言って、ボクは電話を切った。 PRに戻ると、どこかに消えていた人たちが、戻ってきていて、ちょうどディスコタイムになるところだった。 ビートに身を任せて、いろいろな考えが頭の中から消えていくのを、ボーっと眺めている自分がボクのパートナーだ。 何曲か曲が変わり、気がつくと、チークタイムというものになった。 周りを見ると、いつの間にか、またみんながどこかに行ってしまい、一人PRに取り残されていた。 緩やかなメロディーに、意識がはっきりしてきてしまい、もう踊り続けることはできない。 携帯の着信があった。 誰もいないので、その場で出る。 「近くまで来たんだけど・・・」 「たぶん、そのあたりで明るい建物は、ここだけだと思う」 「そうなの? 他にもいっぱい・・・」 「見つけてよ」 彼の言葉を遮り、そう言うと、 「・・・わかった。努力してみる」 と変な返事。 ボクは 「ガンバッテ」とつぶやくように言って、電話を切った。 彼は、ここにたどり着けるのだろうか? パーティーが終わるまでに、たどり着けるのだろうか? |
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