ショートショートバトル 5KBのゴングショー第201戦勝者

「万板橋 」

菅ちゃん

 彼女は柔らかな微笑みを浮かべ、
「そういうのって違うと思います」
と言ったの。
「そうかな?」
 彼はそう言うけど、本当はそう思ってないのは、顔を見れば明らかのようだ。
 二人は、この店にやってきて、三十分程度なのだけど、その間、交わした言葉は二、三というところ。
「このお茶、美味しいね」
「そうね」
 沈黙。
 少しホットな曲に変えた方がいいかな。
 店のマスターは棚に目をやる。
 いや、もっと、ドラマチックな展開にした方がいいか?
「マスター、お客さん、帰ったんですけど」
 バイトのコの言葉に、彼は棚から店内に目を戻す。
「ああ、そうだね」
 確かに、テーブル席に二人の姿はなかった。
「さてと」
「なにが、サテトなんですか?」
 彼は苦笑する。
「えー、なにかおかしいこと、言いましたぁ」
 彼女の目は笑っているようで、笑っていない。
「……彼、元気?」
「カレ? 彼氏ですか?」
「そう、彼氏」
「元気に決まってるじゃないですか」
 彼女はそう言うと、カウンターの側を離れ、新しく入ってきた客の方に行った。




 先ほどのカップル。
「すごい雨だね」
「そうね」
 二人は一本しかない傘の中に入って、雨の中を歩く。
「雨っていいよね」
 彼女は何も応えない。

 そうこうしているうちに、二人は橋にたどり着く。
「冠水してるね」
「そうね」
「渡るのよそうか?」
「どちらでも」
「じゃあ、よそう」
「じゃあ、これで」
 そう言って彼女は靴の濡れるのも構わず、橋を渡っていく。
 傘を渡してしまった彼は、雨に打たれながらそれを黙って見送っていた。
 彼女がわたり終えるころには、きっと雨も止むことだろう。

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