ショートショートバトル 5KBのゴングショー第198戦勝者

「コムンソン」

comson

 ナニガシシチーの話である。
 海外から進出してきた「どっとこむ」コングロマリットによる脱税疑惑の捜査が秘密裏にすすめられていた。
 「どっとこむ」企業の一つの調査を行っていた査察官は、非常に重大な証拠をついにつかんだ。
「よし、これでアガリだ」
 彼は意気込んで、上司に報告した。
「・・・なるほど。君の調査内容は非常に興味深い」
「では・・・」
「そうだな。すぐに令状をとろう」
 査察官は一礼して、上司の個室を出た。
 上司も個室を出て、彼のあとを追った。
 査察官は自分の席に戻ると、コーヒーサーバーから紙コップに注いだ味気ないコーヒーを飲みながら、天井の染みを数えていた。
「・・・くん、ちょっと」
 査察官が振り替えると、上司が大部屋の入り口の方に目をやって、
「話がある」
と言った。
 なにか説明が足りなかっただろうか?
 彼はそう思いながら、すでに部屋を出ていこうとする上司の後を追った。

 上司は喫煙コーナーまでくると、コーナーのドアを開け、中にはいった。
 査察官も入ろうとすると、
「君はそこでいい」
と言ってドアを閉めた。
「ドアを閉めたら話が・・・」
 そんな彼に上司は

<携帯電話のメールで>

と書いたメモを見せると、視線で向こうへ行けといった。

 不可解に思いながらも彼はコーナーを離れ、非常階段の方に向かった。
 非常階段はドアの外で、電波状態は非常によいが、風が強い。
 その上、今の季節は外温が非常に低く、長居は無理だ。
 しかし、携帯電話の使用は建物外で行うこととなっている。最上階で行うには非常階段しかない。

 査察官が外の空気の冷たさにブルっと震えたと同時に着信があった。
 メールには、

 君はどのような経路でこの情報を掴んだのかね?

とあった。
 彼は、庁舎の外の角のカフェで話しをしましょう、と提案した。
 しかし、

 君はどのような経路でこの情報を掴んだのかね?

と同じメールが届いただけで、彼の提案は無視された。
 彼は情報源を説明するには携帯のメールでは足りない、という意味のメールを送った。
 今度はなかなか返信がなかった。
 ちょうど日没時で、夕日がまぶしく携帯電話の文字盤が見づらい。
 着信を知らせる振動はいつまでたってもない。
 彼はドアを開けて中に戻ろうとした。
 しかし、鍵がかかっていた。
 定時を過ぎたので、コンピューターが自動ロックしてしまったのだ。
 彼は焦ってみてもしょうがないので、階段を下り始めた。
 彼のフロアは33階。最上階である。

 この強風と寒さ、そしていつの間にか夕日が雲に隠されて、足元もおぼつかない。
 昨今の経費節減で階段の照明は消されている。
 手探りで一歩一歩降りていくうちに、雪が降り始めた。
 彼はさすがに体温を大分失い、手足がしびれてきた。
 強風の中、雪はどんどん降り積もり、彼が10階降りるころには、階段に雪がこんもり積もっている。
 寒さでかじかむ足で新雪の上を歩くのは、非常に危険だ。
 しかし、このままここにとどまるのも更に危険だ。
 彼は喫煙コーナーで話でもすると思っていたので、軽装だった。

 風邪を引いたのだろうか。
 寒気が彼を襲った。熱っぽく意識も朦朧としてきた。
 彼は、階段に腰をおろしてしまった。
 地上では皆、傘をさしながら「ああ、今日は一晩中吹雪だ」と思いながら家路を急いでいる。



 査察官は自分が配属された初日のことを思い出していた。
 上司は温和で、仲間も暖かく迎えいれてくれた。
 いくつもの案件を皆で協力して処理してきた。
 困難な案件もあったが、それを解決した際は、仲間との絆が深まったように思う。
 さまざまなことが思い出された後、いつのころからか、皆の調査方針と自分のものとの間に相違点のようなものを感じるようになってきたことも、思い出した。
 それと時を同じくして、不可思議なことが同僚に起きるようになった。
 ある同僚は栄転先で事故にあって死亡した。
 上司が食中毒で一時生命の危機にさらされたこともある。
 隣の席の同僚が、この非常階段から転落死したのは・・・。
 なぜか分からないが、そのことを今の今まで忘れていたのだが、急に彼はすべてを思い出した。
 彼は「このままではここで死ぬ」、そう思い立ち上がった。
 しかし、かじかんだ手足はいうことをきかず、彼は真っ逆様に、雪の中を突き抜けていった。

終わり

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