ショートショートバトル 5KBのゴングショー第197戦勝者
SEC
今年も株主総会が一斉に開催される日がやってきた。 某株式会社の総務担当者は戦々恐々としていた。なぜなら、12月期の株主総会で、総会テロが発生したからだ。 昨今の経済情勢の厳しさは、並みの企業には厳しすぎた。コンプライアンスがどうのと会計士はいうが、潰れてしまってはもとも子もない。 そんなわけで、以前ほどではないが、脱法行為を行わざるを得ない場合もある。今が正にそのときだ。当社の従業員は10万。リストラもこれ以上は会社規模からして限界である。 しかし、総会テロが起きた某社は、業界でも紳士的と言われていた企業だ。伝統もあり、誰もが名前を知っている名門中の名門だ。そんな企業があのような・・・。 わが社の行いも似たり寄ったりだ。すでにそれは止めてはいるが・・・。 社長は「大丈夫だ。わが社に限ってそのようなことは起きぬ」と言い切っているが、その表情は微妙だ。 今年は特に株式の電子化関連の法案がらみで、動議が発生する恐れがある。ただでさえ面倒な経済情勢なのに、その上、電子化なんて、証券会社に得することだけしな。発行って言っても、そんなものホフリができてからなかったようなものなのに。 総会は国立競技場を仕切って行うことになっていた。警察の要請だ。単独会場では、対応し切れない。そういうのが彼らの弁だ。 わがグループの主要企業だけで行いところなのだが、同じ穴の貉では・・・と言外に匂わす警備当局に従い、ライバルグループと合同で行うことになってしまった。 相手の株ももってる株主が、掛け持ちで参加したらというようなことは、奴ら思いも及ばないのか? まったく。 その頃、総会の会場では、すべての準備が終わり、あとは、株主と経営者がやってくるのを待つのみとなっていた。 A社の総会に最初にやってきた株主氏は入り口でぎょっとした。物々しい警備体制。まるで各国の要人が来たときのようである。 その上、彼の嫌いな金属探知ゲートもある。 「すまんがの、これ、とおらんといかんかね?」 彼は係員に聞いてみた。 「はい。こちらをお通り願えない場合は、総会へご出席は、遠慮願っております」 慇懃無礼。むかついたが、今日はぜひひとこと言わずにいられない彼は、 「心臓が、ちと弱いのだが・・・」 「ご安心ください。こちらの機器は最新型ですので、ペースメーカーを初め、あらゆる機器への安全対応済みでございます」 彼はハワイに行くときに起きた、空港で出来事を思い出し、苦い顔になった。 「どうされましたか?」 若い係員は、丁寧な口調ではあるが、有無を言わさぬ感じで、そう言った。 彼は観念してゲートを通ることにした。 係員の前で、彼はゲートの中で痙攣をおこし、そのまま倒れてしまった。 「どうされました!」 係員は大慌てで彼に駆け寄ったが、もう彼の息はなかった。 それを見ていた他の株主の間から、「どうした」「ゲートがおかしいのか?」「死んだの?」というようなざわめきが沸き起こった。 「落ち着いてください。ゲートは安全です・・・」 係員のその一言が引き金だった。 会場入り口はパニックとなり、ゲートを押し倒した株主の群れが、会場に雪崩こんだ。 「なにやら、少し騒がしいようだが・・・」 「どうしたのでしょうな」 社長をはじめとする役員連は、少し不安げに口を開いた。 そこに慌てて飛び込んでくる総会担当責任者。 「大変です。セキュリテーをパスしない個人株主が、大量に会場に・・・」 「な、なんだと?!」 控えの間もまたプチパニックになってしまった。 会場では、経営者たちがいつ出てくるかと、株主たちが待っていた。 しかし、定時を過ぎても総会は開催されない。 「大変お待たせしており、申し訳ございません。今しばらくお待ち願いますよう・・・」 壇上の係員に生卵がぶつけられた。卵の黄身が彼の顔を滴る。 「お願いです。ものを投げないでく・・・」 彼の声は、株主たちの罵声にかき消された。 「なに言ってんだ!」 「いつまで待たせるんだ」 「いいかげんにしろ」 控え室では、 「どうなっているんだね、警備のほうは」 「民事不介入だそうです」 「じゃあ、なんのための警備かわからないじゃないか」 「なんで、警備会社をやとわなかったんだ」 「いえ、それは予算の関係で常務が見送れと・・・」 紛糾したままである。 憶した経営者たちは総会を中止することとした。しかし、係員たちは、会場の様子からそれは不可能であると訴えた。 (だいたい、総会は代表取締役が議事進行だろ。止めるなら、自分で出てって言えってんだ) 先ほどのゲートの係員が、そのように思っていても、なにも事態は変わらない。 こうして、史上初の総会中止企業として、この会社は歴史に名前を残すこととなったのであった。 |
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