ショートショートバトル 5KBのゴングショー第196戦勝者

「顔色 」

アケチアケミ

 顔色が悪い。
 最近、わたしはよくそういわれる。
 化粧ののりが悪い。そのせいかな。
 そんな風に思ったのだけど、彼に
「なんか顔色、本当に悪いけど、大丈夫か」
と言われて、はじめて鏡の中の顔を見直してみた。
 目の下に隈ができていた。
 コンシーラでも隠せないくらいの。

 死相がでてる。

 そんな風に思えてしまうほどだった。隈だけでなく、肌も急に張りがなくなり、しわっぽくなったように思う。

 最近、仕事が忙しかったからかな。

 そう思おうとしたけど、ちょっと前と違ってそれほど最近は忙しくない。
 この前、派遣の契約を切られたことのほうが、原因なんじゃないか。
 でも、切られ日、友人と一緒に自棄飲みしてから体調が悪くなったので、それかもしれない。
 考えれば考えるほど、悪い方向悪い方向に、考えが向かっていく。

 派遣先への出勤最後の日、派遣先の上司から「本当に済まない!」と謝られたときは、びっくりした。
 彼の顔色はどす黒く、もうすぐ死んでしまうのではないか、そんな風に思えるほど、ひどかった。
「いえ、  さん、こそ大丈夫ですか?」
 彼はわたしの言葉に「ひっ」と短く悲鳴を上げると、廊下を走り去っていった。

 そんな、驚かれるようなことをいっただろうか・・・?

 わたしは、彼に電話してみた。
 珍しくすぐに彼が出た。
「おお、どうかしたか?」
「・・・ちょっとね」
「・・・なんか、元気ない?」
「うん」
「じゃあ、これから会う?」
 久しぶりに彼に会うのに、こんな格好じゃあ・・・。
 そう思ったわたしは、財布の中のクレジットカードを弄ぶようにして、少し考えた。
 そうしてデパートに行って、限度額まで使い切って、衣装を整えた。
 
 待ち合わせの場所。
 彼が珍しくすでに来ている。
 わたしが「待った」と声をかけると、
「え? どちら様ですか」
と彼は言った。
「わたしよ、わたし」
 彼は「すみません、人と待ち合わせをしていますので」と頭を下げ、わたしと反対方向に向き直ってしまった。
 涙が信じられないくらい流れ出した。

 声を出さずに、どれくらい泣いただろうか。

 彼が時計を何度も見て、そして、何度目かに、その動作を終えた。
 
 行ってしまう。

 その瞬間、わたしは彼の名前を叫んだ。

 かなり大きな声で叫んだつもりなのに、その声は自分でも驚くくらい小さな声だった。
 でも、彼は振り向いた。
「あれ?   じゃん。いつからいたの?」
「さっきからずっと」
「顔色、一段と悪いよ。すぐに病院に行こう」
 わたしはただただ頷くだけだった。

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