ショートショートバトル 5KBのゴングショー第193戦勝者
無無無無
某国の国家財政は、破綻している。\ といのは、誰もが知るところであるが、実は、それを解消する奥の手があった。 国家は、狡猾なのだ。 国家の財布は空でも、国民の財布がある。 そういうことだ。 まったくもってセコイ話であるが、大家が破綻したら、住んでる部屋はどうなるの? ってな感じである。 筆頭債権者の赤井龍さんは、非常にニコヤカニ、やってきたのだけど、僕らを震え上がらせるには十分すぎる、お言葉をおいて帰っていった。 「君たち、ここは3日後に取り壊すから、よろしくね」 「ちょ、ちょっと待ってください!!」 誰かがそう叫んだ。 しかし、赤井さんは、健脚で、一瞬のうちに消え去っていた。 「どうするよ」 隣の部屋の坂上は言った。 「どうするもこうするも、大家が夜逃げしたんだから・・・」 「おい、お前、法学部だったよな」 「え? ・・・ああ、でも・・・」 「でも、なんだよ」 「おいおい、そこで止めとけよ」 「なんでだよ」 「・・・今は、そんなことよりも、引越ししないですむ方法を考えなきゃ」 僕らは貧乏学生なので、引越し代なんて捻出不能だ。 赤井さんは、一人できたけど、その後、このアパートの住人の倍の人数でやってきた黒作業着の男たちは、「差し押さえ」という札を貼って去っていった。 おいおい、差し押さえって、税金払わないと貼られるのじゃなかったのかな? しかし現実に、そういう札がいたるところに貼られ、まるでお寺の山門かなんかのような様相を呈してしまった、このぼろアパート。 僕らは狭く、クーラーもない部屋で、侃々諤々と意見を交し合ったが、所詮、学生である。机上の空論ぐらいしか出てこなかった。 「三人寄れば文殊の知恵というのにな」 「そりゃ、きっとマギシステムみたいなのを言うんだよ」 「なるほど、東方の三賢人か」 くだらない雑学ネタだけは、洪水のときの排水溝に流れる汚水のように溢れ出てきた。 そうこうしているうちに、な、なんと、わが国がデフォルトをおこすという、そういう不穏な噂が、ネットを中心に流れ始めた。 国の大家が破綻。 そういうことになるのだろうか? 国が破綻したら、どうなるのかなぁ。 国債の大量保有者が、筆頭債権者の赤井さんみたいな人だと、困るなぁ。 そうこうしているうちに、夏祭りが終わり、秋が来て、 僕は、友人の家に居候している。 あのアパートの仲間は、みんな、どこか居場所を見つけたのだろうか? もう、あのアパートは更地になっている。 国のほうはというと、「簒奪」(正式にはそう言わないが、誰もがそういっている)により、デフォルトの危機をクリアした。 国ってズルイよなぁ。 僕らにも簒奪する国民がいればなぁ。 そう思わずにいられない、そんな夏だった。 了 |
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