ショートショートバトル 5KBのゴングショー第184戦勝者
北都のマイタケ
わたしは10年ぶりぐらいに、田舎に戻っていた。 もうすぐ夏祭りの時期だ。 今年は不況で中止かもしれない。そんな風に言う人もいたが、こんなときだからこそということで、例年通り開催されることになったらしい。 友人も皆、都会に出てしまっているので、学生の頃通った店の主人とぐらいしか、こんな話はしない。 両親には、顔を合わせづらいので、隣町にアパートを借りて住んでいる。 今日もコンビニのバイトに出かけようとドアを開けると、なぜか、開かない。 鍵閉めたままだったかな。 そう思って確認してみたけど、いくら寝ぼけているといっても、それはなかった。 もう一度、ドアを押す。 ずず。 なにかが引きずられる感覚があった。 ドアを何とか開けると、 『ニュ〜』 と猫のような鳴き声がする。 わたしはドアの裏側をのぞき込んだ。 デブ猫がいた。どうみても、雑種の野良だ。ふてぶてしい目で、わたしを見上げている。 「どうしたの?」 わたしは猫にそう話しかけた。 猫は立ち上がると、アパートの廊下をゆっくり歩いて階段の方に向かっていった。 ちょっとムカッときたけれども、バイトのことを思い出したわたしは、急いで階段を降りる。猫は階段のど真ん中を「ととととと」と降りて、アパートの前の道路を横切って、向かいのマンションの脇に入っていくところだった。 今日のバイトはさんざんだった。 だいたい、わたしは接客業は向いていないんだと思う。 明日からどうしたらいいだろうか? この片田舎では、求人はとても少ない。 通帳を棚から取り出して開いてみた。見なくても分かっているが、見てしまう。 死にたい気分になってきた。マジで。 そのとき、『んにゅ』とドアの外で何かの鳴き声が。 今朝のアレがまた来たのかな。そう思ってわたしは出てみた。 今朝と変わらぬふてぶてしい顔でわたしを見上げる野良。 その顔が憎らしくて、 「なにしにきたの?」 と腰に手を当てながら言ってみた。 するとそいつは、勝手に部屋に入ってきた。 「ダメ!! ここ、ペットダメなんだから」 わたしが慌てるのにも全然かまわず、野良はベッドの方に。その見かけからは、考えられないような軽快な足取りで、「たたた」と小走りで進んだ後、ぱんっとジャンプして、ベッドのど真ん中に陣取ってしまった。 「なに勝手なこと……」 わたしが怒っても、全くの無視。 その後、あの手この手で出て行かそうと思ったのだけど、思った以上にしぶとく、わたしの方が根負けしてしまった。 疲れた、寝よう。 そう思ったが、野良が、ベッドの中心で、寝息を立てている。 「ちょっと、はじっこに行ってよ」 そう言ってわたしが押すと、起きて少しだけ位置をずらした。そしてすぐにまた寝てしまった。 デブでふてぶてしいけど、なんか寝顔は可愛いところもあるな、わたしは野良の顔を見ているうちに、いつの間にか眠りに落ちていった。 了 |
[前の殿堂作品][殿堂作品ランダムリンク][次の殿堂作品]