ショートショートバトル 5KBのゴングショー第17戦勝者

「兎のゆううつ」

岡野なおみ


 昔、十二支を決めるときに、暦の神様が動物たちにレースをさせた。先にゴールに


着いた順番に、年が巡り来るようになったわけだ。ねずみ、うし、とらとゴールにた


どりつき、兎は四番目。しかも雨の神様の竜に勝ってしまった。
 食われると思ったのでわざととらに負けたのだが、竜のことまで頭が回らなかった


のだ。それが竜の逆鱗にふれてしまった。
 それ以来、兎の家のまわりは、水浸し状態である。自分よりも先についた兎が気に


入らなくて、竜は雨をそこだけ降らせるからだった。
 もともと、兎はこのレースに出るつもりはなかった。怠け者だったので、大事な亀


との試合の時だって寝てしまったほどだ。しかし暦にのるという誘惑が兎を動かした


。途中で寝てしまったたために四番目だったが、ともかく有名になれたのだ。その、


怠け者に負けてしまったのが竜は気に入らないのである。
 このままでは兎の家は夜も眠れないほどになってしまう。
 満月の夜兎が図書館にやってきたのは、暦の神様が図書館長をしていたからで、昼


間は忙しいから夜中に来いと言われたのだ。空の満月は兎の先祖が餅をついている。



 図書館そのものの歴史は五千年前から存在していて、人間のために暦をつくった時


点ではすでに粘土板が本として並んでいたのである。暦の神様は兎がやってくると、


黒縁のめがねをずりあげながらこう言った。
「わたしが行った暦のレースで、迷惑していると言っていたな」
「はい、どうか竜の機嫌をなおしてください」
 兎は訴えた。
「兎よ、おまえが困っているのは知っている」暦の神様は重々しく言った。
「だが、このレースは神聖なものだ。簡単に覆ると思ってはいけない」
「わたし、なんでもします!」兎は必死になっている。
「・・・よほど困っているのだな。よろしい。では竜にわたしから球のプレゼントを


することにしよう。竜は球が好きだから、きっと機嫌もなおるだろう」
 やった、と兎が小躍りすると、
「ただし! 条件がある」暦の神様は言った。
「十二支を人間にプレゼントしたとき、人間は鏡餅を飾ってわたしを祝ってくれると


約束した。しかし、人間は餅つきの方法を知らない。兎よ、月の兎に会ってきて、人


間に餅つきの技法を伝授するのだ」
「わかりました!」
 こうして兎は先祖に会いに行き、餅のつき方を先祖から教わると、人間に伝授した


のだった。おかげで人間は餅のつき方を学び、兎は手柄をほめられ、竜は球をもらっ


て八方まるくおさまったのであった。

[前の殿堂作品][殿堂作品ランダムリンク][次の殿堂作品]


[HOME][小説の部屋][感想掲示板][リンクの小部屋][掲示板]