ショートショートバトル 5KBのゴングショー第168戦勝者

「一匹の猫」

子猫々

ある家に一匹の猫がいた。
その猫は小さな家で優しい主人と共に暮らしていた。
猫は毎日がとても幸せだった。
暖かい主人の膝で眠り、食事をし、優しく撫でてもらう。
それだけで、猫はとても幸せだった。

そんなある日のこと、猫の主人は外へと出掛けていった。

「すぐ帰るから」

猫は主人の言葉を信じ、主人の帰りを待った。

でも

窓の外が何度も明るくなっても、暗くなっても、主人は戻ってこなかった。
猫は不安でたまらなくなり家を飛び出した。
そして、鳴きながら主人の姿を捜した。

鳴いて鳴いて主人が自分に気付いてくれるように鳴き続けた。
けれど、猫の耳に主人の声は聞こえて来なかった。

家に戻っているかもしれない。

そう思った猫は、家に戻った。
けれど、やっぱり主人はいなかった。
猫は主人の椅子に乗り、主人の帰りをひたすら待った。

そして、時は流れて行った。

猫はまだその家にいた。
主人が死んでいるのはもう分かっていた。
けれど、猫はその家にいた。
すっかり年を取って主人の椅子にうずくまっていた。

すると、不意に家の戸が開いた。
猫はもう余り動かない頭を少し上げて戸口を見た。
そこには猫の主人が立っていた。
いなくなったあの日のあの姿のままで。

「ただいま、少し遅くなってしまったね。さぁ、おいで」

主人の声を聞き、猫は椅子から飛び降りた。
そして、駆け寄って抱き上げられた猫は、主人と過ごした日々の姿に戻っていた。
待ち望んだ主人の胸で、猫は一声ニャーと鳴いた。

ある家に一匹の猫がいた。
その猫は、死んだ主人を待ち続けていた。

そして

ある晴れた日にひっそり息を引き取った。
まるで、幸せな夢に包まれる様に。

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