ショートショートバトル 5KBのゴングショー第163戦勝者

「見えない手」

鏡 もち

 一人の男が重厚な門を開いた。ここは高名な霊媒師の館である。
 男は足取り怪しく、頬はこけ、目の下にはクマ。つまり典型的なツカレテイル人である。
 しかしそれらの異常のなかで一際目立つのは「肩」に違いない。腕を伸ばして立つと、右手の指先は膝に触れているが、左手の指先はというと尻までしかない。例えるならば滑り台である。

 開口一番、霊媒師は男の下がっている肩を見ながら言った。
「右肩、重たいでしょう?」
 彼の元に訪れた人間で、片方の肩が落ち込んでいる者は口をそろえて言った。
「肩が重くて仕方がない。見えない何かが乗っているに違いない。何とかしてくれ」
 そう訴える者たちを水晶玉で霊視すると、確かに肩には誰とも知らぬ手が乗っているのだった。したがって霊媒師の質問は実に理にかなっていると言えた。
 が、男はイスに掛けながら答えた。
「それが……重くないのです」
 霊媒師は腕を組み、首を捻った。そして、どうやら培ってきた経験が通用しない相手らしいと、気を引き締めた。
 霊媒師は深く深呼吸を一つ、両手を水晶玉にかざした。怪しい光を放ち、水晶玉は見えざるものを映し出す「目」となる。
 なるほど、確かに右の肩の上には何もない、霊媒師は頷いた。重くないというのは嘘ではないらしい。
 ならば右肩が下がる原因は――霊媒師は男の左側を見て目を丸くした。
「軽いでしょう?」
 傾いた男は苦笑いしながら言った。
「はい。ですが、歩きにくいので疲れます……」
 男の左のわき下には誰とも知らぬ手が差し込まれていて、ぐいぐいと上へ引っ張っているのだった。

作者のサイト:http://ameblo.jp/kagami-moti/

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