ショートショートバトル 5KBのゴングショー第159戦勝者

「沈みゆく町」

灰人

 僕と廃墟の間には灰色の砂原がある。
 底で何かが陥没し、砂原は徐々に沈んでいった。やがて沈降は静かにとどまり、柔らかな円いクレーターができた。
 クレーターの底には一本の細い赤色のパイプが刺さっており、それは陥没に従って時々砂を吐き出した。
 やがてそこから水が溢れた。はじめは濁っていたものが、だんだんと透ってゆき、そうして水は溢れつづけた。
 クレーターはやがてひとつの池となった。底まで光が通り、歪んだ像を映し出した。
 水の中には透明の藻類が生じ初め、やがて水の色の魚も生まれた。池の周りには透けた草木が茂っていた。
 僕は歩いて行って水に入り、そこで暮らし始めた。長い時の間に、僕の体もまた、芯まで水の色になった。
 ある夜、僕は水から出て、廃墟に向かって歩き出した。透明になった僕の体はひどく軽く、微かに浮いているようで、足音もせず、足跡もつかなかった。
 滑るように進んで、朝になるころ廃墟に来た。窓が壊れ、壁の塗装の剥がれた家並。舗装のくたけた路。錆ついた蝶番の扉。がらんとして、白い光ばかりの充ちた部屋。斜めに落ちているカーテンレール。そういったところに僕はいた。
 僕が、彼らが、僕らが、そこにいた。人の目に写ることなく、あらゆるところに僕はいた。廃墟の町はそうして少しづつ、透明に沈んでゆくのだった。

作者のサイト:http://www.geocities.jp/bananafish61/

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